レイシャルメモリー 3-04
ドアの閉まる音に息をつき気が緩むと、フォースは今どうしているのかが不安に思えてきた。身体を洗い、部屋で休ませるとジェイストークが言っていたことを思い出す。
クロフォードはフォースが戻るはずの部屋へと歩を向けた。ドアの外でクロフォードを待っていた騎士二人はなにも言わず、左右、後方から付いてくる。
そんなに神の守護者の血が必要なら、なぜあの薬だったのか。もし行動を制限される方の効き目ではなく、死んでしまう方だったとしたら。
そして、その死という事実が生け贄ならば、なぜ今なのか。供物台よりエレンを連れてきてから今まで、神の血を王家に入れてなお生け贄が必要ということを、マクヴァルが話す機会はいくらでもあったのだが。
エレンがいた頃、そして二人が姿を消してからフォースに再び会うまでは、目の前にフォースがいない分だけ、まだ冷静に生け贄の話を聞けただろう。そして、当然話す方も話しやすかっただろうにとクロフォードは思う。
エレンは、神がフォースまでをも生け贄にと望むことを知っていたのだろうか。あの詩にはそのような言葉は無い。もし知っていたならば、どうにかして助けようとしたに違いない。
それがメナウルへ行く動機だったのかもしれない。地の青き剣水に落つ、と、詩は示していた。だが普通に考えて、風の影裂かん、と、神自身が期待している相手を生け贄に欲したりはしない。
影と呼ばれているのは、やはりシェイド神かマクヴァルなのだろう。いや、神を守る種族として影を裂くのなら、相手はマクヴァルだ。だが、シェイド神はマクヴァルの中にいる。シェイド神を守りつつマクヴァルを斬るなど、できることなのだろうか。
「自分が何をしているのか、分かってるのか?!」
廊下を右に曲がった先からだろう、不意にフォースの声が聞こえてきた。クロフォードは後ろの騎士を制すると、廊下右をそっとのぞき見た。
最初に、まだ髪の濡れているフォースと抜き身の剣を握った護衛の騎士が目に入った。そしてバタバタと向こう側へ逃げていく兵士と、手すりになったその向こう、背の低い庭木の影に、リオーネの兄であるタウディが隠れているのが見える。
「あんたがしていることは、レクタードの顔に泥を塗る行為なんだぞ?」
フォースはそのタウディの方向を指差した。隠れてはいるが、すでに見つかっているらしい。護衛の騎士はフォースの態度を、ただオロオロと見つめている。
「三度目は許さない。今度こんなことがあったら、俺はあんたを斬る!」
フォースの三度目という言葉に息を飲む。護衛の騎士も目を見開いて固まった。
これが二度目ということなのだ。一度目の報告はなかった。事を荒立てないつもりでいたというのだろうか。
フォースはタウディから視線をそらすと、サッサとこちら側へ歩き出す。騎士も剣を収めて後に続く。