レイシャルメモリー 3-05
そこに、向こう側からジェイストークが駆け寄ってきた。それに気付いたのか、フォースが足を止める。
「レイクス様、どうしました? なにかあっ、あ……」
ジェイストークはタウディに気付いたらしく、木の陰に向かってハァとため息を吐き出した。タウディは身体を小さくして、そそくさとその場を去っていく。
「またですか?」
「なんでもない」
憮然とした表情でジェイストークにそう答えると、フォースは歩き出そうと再び足を踏み出した。前回があったのも知らなかったが、やはりフォースはこの事件も報告する意志がないようだ。
「あ、お待ちください。これを」
ジェイストークはフォースの腕を引き、もう一度引き留めて向き合った。訝しげなフォースの前に、軽く握った手を差しだし、ゆっくりと開く。
ジェイストークの手のひらで、ペンタグラムが紺色の光を反射した。フォースが巫女と交換したモノで持たせておきたいと、ジェイストークから進言され許可した記憶がクロフォードの胸に思い出される。
「なっ?! これ、……」
フォースは、その手のひらに乗ったペンタグラムを凝視した。それからジェイストークの顔に視線を移す。その顔が笑みで緩んだ。
「本物ですよ? って、わかりますよね。鎖も直してあります」
ジェイストークはフォースの手に手を添えて、ペンタグラムをそっと渡した。フォースはそのペンタグラムに見入っている。
「あんなところから、どうやって」
「似たようなペンダントを落としてみましたら、ほとんど真下に落ちまして。まぁ、人数と根性さえ出せば。早く見つかってよかったですよ。……、いらなかったですか?」
顔をのぞき込んだジェイストークに、呆気にとられて聞いていたフォースは慌てて首を振った。
「い、いや、ありがとう。ありがとう……」
フォースはペンタグラムを包み込むように握りしめ、目を細めて手からこぼれた鎖を見つめている。クロフォードの目に、フォースは嬉しそうでもあり、今にも泣きだしそうな顔にも映った。ペンタグラムを心から大事に思っているのが、よく分かる。
ジェイストークの腕が上がりかけて止まったことに気付いたのか、フォースが訝しげに顔を上げた。ジェイストークは照れ笑いを浮かべる。
「すみません。つい、頭を撫でたくなってしまって」
その言葉にフォースは目を丸くし、ポカンと口を開けてジェイストークを凝視した。それからふと正気に戻ったように視線を泳がせると、顔を背けるようにこちらを向いて歩き出す。その後に、ジェイストークと騎士が慌てて続いた。
「未遂じゃないですか。そんなに照れないでくださいよ」