レイシャルメモリー 3-06
「バカ言え、照れてなんてない」
フォースは少し顔を上気させ、手にしていたペンタグラムの鎖を首にかけた。そのまま宝石の部分を握っている。
「それにしても、いい手だったですよ。それを媒体だと思いこませようだなんて」
ジェイストークは笑顔を崩さず、フォースの背中から声をかけた。フォースは眉を寄せ、短く息をつくと苦笑する。
「いや、違うんだ。あの時俺、媒体はこれじゃないって本気で訴えてたんだけど無視されて」
「な、なんですって?」
フォースの言葉に面食らったのか、ジェイストークは呆気にとられた顔でフォースの背中を見ている。ジェイストークをチラッと見やると、フォースは力の抜けた笑い声をたてた。ジェイストークは、そうだったんですか、と、長いため息をつく。フォースはもう一度振り返ると肩をすくめた。
「ありがとう。あの状況で助けてもらえるなんて、微塵も思ってなかったから嬉しかった」
「微塵も、ですか。まぁ非常に幸運だったのは確かですが」
苦笑いを浮かべたジェイストークの目が、ペンタグラムを握った手に向いていることに気付いたのか、フォースは青い星の宝石を襟の内側に滑らせた。
「本当によく効く御守りですね。効き目は強大です」
「ああ。これがなかったら、俺が溶けていたかもな」
フォースのその言葉でクロフォードの脳裏に、床に広がったデリックと騎士だったモノがよぎった。マクヴァルがフォースの死もいとわないと思っている限り、フォースが溶かされてしまうこともありえるだろう。それはどうしても阻止したいと思う。
思わず足を踏み出し、クロフォードは廊下に出た。フォースはギョッとした顔をしたが、気を落ち着けるように静かに息を吐くと、ほんの少しだけ決まり悪いような笑みを浮かべる。
その笑みは、自分が心配してここにいることを理解してくれているからだろう。フォースのその思いは、クロフォードにとって掛け替えのないものであり、何より大切にしたいものだった。
クロフォードは、意を決して口を開く。
「シェイド神が、レイクスを生け贄にしたいと言っているそうだ」
「な?!」
フォースはほとんど叫んでしまってから、眉を寄せて口を閉ざした。一度視線を背け、唇を噛むと、再びクロフォードに視線を向けてくる。
「それを、どうして俺に」
「危険だと思ったからだ。皇帝としてシェイド神のおっしゃることを聞かねばならないのかもしれん。だが、神に見捨てられてもいい、私はお前に生きていて欲しい」
勝手な言い分だと分かっている。だが、クロフォードには素直な気持ちだった。敬語を使う余裕もなかったのか、自分のことを俺と言ったフォースを庇護したい気持ちに拍車がかかる。