レイシャルメモリー 3-07
「でも、こっちへ来てから俺を戦士だと呼んだ以外には、シェイド神は声すら出していないんです。マクヴァルがシェイド神と会話しているはずが……」
フォースは顔をしかめたまま、遠慮がちに口にした。マクヴァルは確かに、神との会話を説明するように、ことのあらましを話していた。
「では、その生け贄というのは一体なんだというのだ?」
もし神の言葉ではなかったとしたら、答えは一つしかない。それを口にした人間、すなわちジェイストークの父であり、シェイド神の器であるマクヴァルの言葉なのだ。
「陛下、それは父だけの都合と思います」
ほとんど無表情で、ジェイストークがかしこまって言う。マクヴァルがジェイストークの父だと察していたのだろう、フォースは驚きもせず、硬く瞳を閉じた。
「シェイド神の声が聞こえたふりをして、自分の思うがままに命令していると?」
「はい。先ほどの事件を目撃していたのに、私は助かりました。それは、神ではなく父の意志だからなのかもしれません」
ジェイストークまでもがそう言うことに、クロフォードは確信が大きくなるのを感じる。
「すべて隠せるのに、そうしなかったということか。しかし、隠す必要があるほど、力が弱いわけではない……」
「信者であるだけで、デリックと同じように誰もがレイクス様を襲う可能性があります」
信者だけではない。タウディもそうだったように、王位継承の件でも狙われている。しかも、利害が一致するからには、その両方が結託することもできる。敵は溢れるほどいるのだ。
「しかも、シャイア神の力ではあの騎士が溶けるのを止められなかったんです。もちろん戦士であるレイクス様を守った上でのことでしょうが。殺そうと思えばいつでも殺せてしまうのかもしれません」
マクヴァルは、エシェックと呼ばれるゲームで駒を動かすように、簡単に命を動かしている。神を味方に付けている分、その駒の数は圧倒的にマクヴァルが多いし有利だ。
「いったい、どうすればいいというのだ」
「やはり、レイクス様はメナウルに戻られるのが、一番よろしいのではと」
クロフォードはこの言葉を怖れてはいたが、必ず聞くことになるだろうとも思っていた。確かにゲームの盤上に安全な場所はない。
「しかしそれでは……。しかし……」
このまま帰してしまったら、フォースはこの盤上、ライザナルに戻っては来ないかもしれない。神のことだけではない、戦もあるのだ、戻るのは難しいだろう。だがメナウルにやらないと、フォースの命も何もかもすべてを失ってしまうかもしれないのだ。
「だけど、俺が帰ることで、マクヴァルの行動に制限が無くなってしまうんじゃ」
その言葉に、クロフォードの心臓が大きく音を立てた。思わずフォースの顔を凝視する。