レイシャルメモリー 3-08


「神が声を出されても、それを受け取れる人間がマクヴァルだけになってしまいます」
 それを聞いていたジェイストークは、フォースに真剣な顔を向けた。
「帰りたいんですよね?」
「そりゃあ、……、もちろん……」
 フォースはクロフォードの視線を避けるようにうつむいた。ジェイストークは寂しげな苦笑を浮かべる。
「レイクス様は、死ぬまであの部屋に幽閉されるんですよ。出歩かれては危険ですからね。これからは部屋から一歩も外に出ず、世話をするためのごく一部の人間……、ま、せいぜい私とアルトス、あとは陛下としかお会いになれなくなります」
 訝しげに顔を上げたフォースに、ジェイストークは肩をすくめた。
「ですから、父に露見する前に、シャイア神を連れて戻ってください」
「待ってくれ」
 クロフォードは、思わずジェイストークの言葉を遮った。口をつぐんだジェイストークが、表情を隠すためか頭を下げる。
 フォースがさっさとマクヴァルを斬ってしまえば、その宗教が浸透しているこの国自体を、敵に回しかねない。
 しかしこのままだと、エレンのように犠牲にしてしまうかもしれないのだ。逃げきれればいいが相手は神の力だ、いつかはシェイド神に殺されてしまうだろう。そう思うと、フォースをメナウルへ行かせることを、反対などできはしない。
「危険なのは承知している。だが、少しだけ待って欲しい。マクヴァルが影であるなら、この戦も意味がないのだろう。ならば……」
 うつむいていたフォースが向けてくる疑わしげな視線と、クロフォードは真剣に向き合った。
「追々退かせてもらう諭旨、レクタードとメナウルの姫との婚姻も考慮していただきたいとの親書を、あちらに届けてはくれまいか」
 反対されるだろうと思っていたのだろうか、その言葉にフォースは目を丸くしている。
「そして、できるだけ早いうちに返事を持って戻って欲しいのだ」
「陛下、それではやはりレイクス様が危険かと」
 ジェイストークは、慌てたようにクロフォードに告げてくる。だがクロフォードは、断固として首を横に振った。
「いや、レイクスは風の影を裂いてもらうためにも、ライザナルには必要なのだ。戻ってくれないと困る」
「それは、俺もそう思います。そうしない限り、問題は何も解決しない」
 フォースがまっすぐな視線を向けて言った言葉に、クロフォードはうなずいた。
「すべてが上手くいくかどうかは、お前の身一つにかかることになる。それでもよいか?」
「そんなことは、かまいません」
 フォースはそう答えはしたが、クロフォードが戻ってこいと言ったことが、まだ半信半疑のようだ。そしてそれは必ずしも間違ってはいないとクロフォードは思う。

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