レイシャルメモリー 3-10
マクヴァルについて、まだハッキリ分かっていないのもフォースには辛かった。どうして神の力を自由に使うことができるのか。そしてなにより、いったいなんのために、そういう行動を取っているのか。
大事なところが抜け落ちている。だが、マクヴァル本人と話をできない状態では、解決のしようもない。聞いて素直に話すとも思えない。
「俺にはまだ、その意志ってのが、できていないみたいだ」
フォースのつぶやきに、ジェイストークが目を見開いた。その表情がゆっくり苦笑に変わる。
「斬らなくては殺されてしまうかもしれません」
「それは斬らなければならない直接の理由にならないだろ。リディアの拘束を解いてもらいたいってのもあるけど、それもだ」
虚を衝かれたのかポカンとしているジェイストークに、今度はフォースが苦笑を向けた。
「だいたい神ごと斬ってしまったら、守護者でもなんでもないだろ。意志ってのは剣とは違うのかもしれない」
肩をすくめたフォースに笑みを返して、ジェイストークは何か考え込んでいる。
剣では神は斬れないのかもしれないが、斬ってしまうかもしれないのに、実行に移すわけにはいかない。
「神に見捨てられてもいい……」
ジェイストークの小声に耳を疑い、フォースはジェイストークを見やった。それに気付いたジェイストークが、いつものような笑みをフォースに向ける。
「先ほど陛下が、そうおっしゃってましたでしょう? たぶん陛下は、レイクス様にその意志がなくても、レイクス様自身を守るために影を裂いて欲しいと思っていらっしゃいますよ」
本当にそれでいいのなら、今すぐにでもマクヴァルを斬ってしまいたいとフォースは思った。だが、どうしても拭えない違和感がある。
「風の意志剣形成し、青き光放たん。その意志を以て、風の影裂かん……」
フォースは詩の一部を声に出してみたが、やはりひどく空々しく響く。風の意志というのは本当に自分のことなのだろうか。もしかしたら、神自身の意志がどこかにあるのかもしれない。
「神か……」
自分がつぶやいたその言葉で、学校で暗記させられた教義の文頭が、フォースの脳裏に浮かんできた。フォースの声に振り返ったジェイストークに聞かせるよう、フォースは教義を口にする。
――ディーヴァに大いなる神ありき。神、世を七つの分身に与えし。裾の大地、海洋を有命の地とし五人に与え、異空、落命の地を創世し二人に授けん。天近き力のパドヴァルはヒンメルに、中空照らすライザナルはシェイドに、恵み横たわるシアネルはアネシスに、くまなく流伝すメナウルはシャイアに、命脈の波動発すナディエールはモーリに。