レイシャルメモリー 3-11


 そこから先が思い出せずに眉を寄せたフォースに、ジェイストークが身を乗り出した。
「それは?」
「教義の最初の部分だよ。たぶん間違えてはいないと思う。この先は忘れたけど」
 神は、いや、神の分身は七人もいるのだ。そこに意志があっても何らおかしくはないと思う。
「神の守護者のことは、……、教義には無いですよね」
 ジェイストークの言葉に、もし教義にあったら、母親がメナウルに行った時から大変なめに遭っていただろうと思い、フォースは苦笑した。
「アルトスです」
 ノックの音と同時に響いた、いつも最初だけキチッとしたアルトスの声に、ジェイストークがドアを開ける。
「エレン様がさらわれた時に落ちていたペンタグラムだ。陛下がお前に渡せとおっしゃっていた」
 アルトスはフォースの予想通り、お前呼ばわりで入室してくると、フォースに少し大きめなペンタグラムを渡した。なぜこんなモノを、と聞こうと見上げると、聞き返す間もなくアルトスが口を開く。
「陛下は親書を書かれている。なるべく早くと思っていらっしゃるようだ」
 マクヴァルのことを考えると後ろ髪を引かれる思いはあるが、それでも帰れると思えば嬉しかった。みんなに、そしてリディアにも会えるのだ。
「ジェイの立てた計画に従って、馬の手配も進めている。密行だから、街道は通れない。道中、キツくなるぞ」
「分かってる」
 メナウルとのやりとりで、リディアは直接迎えに来ないと動かないという、余計な返事が混ざっていたことを思い出す。その返事があったのは、どこかで質問が紛れ込んだとしか考えられない。
 疑われたのではないだろうか、変わってはいないだろうかと不安になる。だが、それは向こうもそうだろう。早く帰って話をしたい、誤解があるなら解きたいと思う。
「ああ、それとだ。デリックの娘サフラが、何者かに手引きされ、逃亡した」
 アルトスの報告に現実に引き戻される思いで顔を上げ、フォースはまたかと肩をすくめた。
「彼女が悪い訳じゃないだろうに」
「逆恨みということもあります。念のためですよ」
 そう言うとジェイストークは、同意を求めるようにアルトスに視線を移す。
「お前がとんでもないフリ方をするからだ」
 アルトスはそっぽを向いて鼻で笑った。ホクロと言いつつ胸の膨らみを指差したサフラを思い出し、絶対に違う理由だろうと思いつつも反論できず、フォースは顔を覆ってため息をついた。

第2部6章1-01へ


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