レイシャルメモリー 1-04
「どうして私なんか? リディアさんに酷いことをして、ひねくれてて、可愛くなくて。サーディ様、全部見ていたじゃないですか」
「いや、可愛いよ。その女性として一生懸命なところが」
ユリアの顔が、みるみる上気した。顔を隠すように両手で頬を押さえ、うつむく。
「変な方」
「い、いや、変って……」
ユリアのつぶやきに慌てたサーディは、思わずその場を笑ってごまかした。ユリアはつられたように少し笑うと、丁寧に頭を下げる。
「ありがとうございます。嬉しいです。一生、……、忘れません」
ユリアは頭を上げると、サーディと視線が合わないうちに背を向け、厨房の方へと早足で去っていった。
「忘れません、か」
サーディは、見えなくなったユリアの後ろ姿に向かって、つぶやくように口にした。
後ろのドアが開いた気配にサーディが振り返ると、廊下に入ってきたリディアと目があった。リディアはサーディに軽く会釈をすると、講堂の方向にも頭を下げ、そっとドアを閉じる。
「もしかして、今の聞こえてた?」
サーディの問いに、リディアは控え目な笑顔を向けてくる。
「私は歌っていましたから」
少し落ち着いて考えれば、聞こえるはずがないことはすぐに分かった。だが、リディアは肩をすくめて言葉をつなぐ。
「でも、ドアのすぐ向こうにいるアジルさんになら、聞こえていたかもしれません」
リディアが申し訳なさそうに続けた言葉に、サーディはうろたえた。笑ったつもりの声がノドに張り付く。
「そ、そうか、いるんだ。いや、実はユリアさんにフラれて」
サーディは、そう言ってしまってから、言わなくていいことだったと気付いた。リディアはキョトンとしている。
「あ、でも、リディアさんは気にしなくていいんだ。不思議とダメージが少ないし、サッサとあきらめようと思ってる」
サーディが続けたその言葉に、リディアが眉を寄せた。その表情に、サーディはひどく不安になる。
「え? 俺、何か気に障ること言った?」
「いいんですか? あきらめてしまって」
リディアは、まっすぐな瞳でサーディを見上げてくる。
「ユリアさんのこと、好きなのではないんですか?」
自分はユリアが好きなのだと思う。いや、間違いなく好きなのだ。でも、断られてホッとした気持ちがあったのも確かだった。
「好きだよ。でも、神職に就くと説明されて、それで納得できるくらいの感情だったのかもしれない」
サーディは、今度は自分で眉根を寄せた。言葉にしてみたら、どこか違う気がしたのだ。