レイシャルメモリー 1-05


 リディアはなにも言わず、少し目を伏せがちにして、ただそこに立っている。だが、非難されないというだけで、サーディはひどく安心していた。
 ふと、今まで引っかかっていた、誰もが変わらずにいる腹立たしさが蘇ってきた。だが、その腹立たしさに、変わっていないのは自分の方だと気付かされる。
 グレイもバックスもアリシアも、ユリアもリディアも、周りのすべての人がフォースがいない事実を受け入れ、その上でしっかり次の状況を見つめている。
 だが自分には後悔だけだ。どうにかしてフォースを取り返したいと、行ってしまった当時そのままの変わらない体勢で、無駄に手だけを伸ばしている。
 ユリアを好きなのは確かだ。でも、自分は付き合って欲しかったのではなくて、もしかしたらユリアも同じように無力感を持っていることを、期待していたのかもしれない。
 こんな気持ちで告白されたなら、ユリアにとっては失礼きわまりない、迷惑千万な話だと思う。
「俺一人、何もできていないんだな……」
 そのつぶやきに、リディアは静かに首を横に振った。
「いいえ。サーディ様はライザナルとの連絡を取り続けてくださっています」
「きみは、それに本当に意味があると思うのか? フォースのことすら、ほとんど分からないってのに?」
 食ってかかったサーディに、リディアは困惑しているのだろう、いくらか表情を引きつらせると至極真面目な顔をする。
「意味はあります。メナウルとライザナルを繋げるための、とても大きくて大切な一歩です」
 その言葉に、サーディは反論ができなかった。中身はまだ伴っていない。でも、根気よく続けることで、好転させることができるかもしれないのだ。最初はそう思っていたはずだ。こんなことすらすっかり忘れている。
 リディアは、自分の強い口調にも逃げることなくそこにいてくれる。ユリアが言っていた、両手を広げてすべてのことを受け入れる、というのは、こういうことを言っているのかもしれない。
「俺だけが立ち直れないでいるのに、俺はその気持ちを誰かと共有したくてたまらないんだ。嫌な奴だよな」
「そんなこと。私はサーディ様がそう思ってくださることが嬉しいです。フォースを思ってくださるお気持ちも、一緒にと思ってくださるお気持ちも、とても」
 許されていると思うと、わだかまっていた感情が解け、身体から余計な力が抜けていく。シャイア神が同居している人の言葉だからか、フォースを誰より大事にしている人がそう言ってくれるからか。この安心感を放したくないという欲求がふくれ上がってくる。
「それに、サーディ様は頑張ってくださっています。ライザナルとのこともそうです。詩の意味にも気付いてくださいました。それに、?!」

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