レイシャルメモリー 1-06
頭より身体が先に動いた。気が付いたらリディアを抱きしめていた。避けようと思ったのだろう、リディアの手が自分の胸にある。自分を押し返そうと抵抗される分だけ、身体に回した腕に力を込めた。
「やめてください、離して……っ」
拒絶の言葉は聞きたくない。サーディはリディアの頭に手をやり、自分の肩口に押しつけた。
「少しでもいい、どうかこのまま……」
どうしてこんなことをしているのだろうと我に返っても、それでもサーディはリディアを解放しようと思えなかった。リディアの身体から、抵抗していた力が抜けていく。
「寂しいんですね」
胸の辺りに響いた言葉にギクッとし、サーディは思わず腕を緩め、リディアの顔をのぞき込んだ。リディアは眉を寄せていたが、顔を上げると悲しげに微笑む。
「私も寂しいです。でも、フォースは必ずここに戻ってくれます。サーディ様もきっと、寂しいのはその時までのことです」
リディアの口からフォースの名を聞いて、後悔の気持ちが膨れ上がってくる。リディアはシャイア神ではなく巫女なのだ。それでなくても、願いを聞けなどと強要するのは間違っている。
それに、ユリアが神職に就くことをリディアのせいにして甘えていいわけがない。同じように寂しいだろうからと、自分が抱きしめていい存在ではない。
サーディは慌ててリディアの二の腕をつかみ、身体を離した。
「ご、ごめんっ。俺、いったい何やって……」
リディアが、いいえ、と首を横に振った瞬間、両手に一瞬しびれるような痛みが走り、サーディは慌ててリディアから離れた。リディアは、サーディがつかんでいた自分の両腕を、あきれたように交互に見る。
「もう。シャイア様ったら……」
リディアのつぶやきから、今の衝撃はシャイア神が発したモノだと想像がつく。サーディはその両手の平をしみじみと見つめた。
「本当にごめん。シャイア様だって許してくれるはずがないよな」
「でも、シャイア様は最初から拒否しなかったんですよ? きっとサーディ様のことを心配なさったんだと思います」
その言葉に、またいくらか肩の荷が下りる。だが、バックスも自分を信じたからこそ、ここに一人で行っていいと通してくれたのだろう。フォースに対しても、これは間違いなく裏切りだ。
「部屋に戻りませんか?」
リディアが心配げに見上げてくる。今はこれ以上、リディアと一緒にいてはいけないと思う。
「俺は講堂に出るよ。シャイア神に祈りたいし懺悔もしたい」
「分かりました。でも、あまりご自分を責めたりなさらないでくださいね」
その言葉にサーディは頭を下げ、ありがとう、と返した。頭を上げて、ふと言わなければならなかった用事を思い出す。