レイシャルメモリー 1-08
その光が髪の先からつま先まで行き渡った時、リディアはゆっくりと立ち上がり、目を開いた。その瞳は、シャイア神の存在が身体を支配した時の色である、緑の光をはらんで輝いている。だが、リディアの意識は確かにそこにあった。
シャイア神の思いがリディアの気持ちのヒダ、一つ一つに寄り添っている。シャイア神が母のようにフォースを慈しみ、庇護しているのが、手に取るように伝わってきた。
リディアの持つ愛情は海に流れ込む水のようにシャイア神に受け入れられ、逆に海辺でたゆたう波のような感情が、リディアの想いへと暖かく打ち寄せてくる。まるで羊水に包まれたような安心感に、リディアは顔を上げた。
リディアの視界には、壁一面に広がる本の背表紙が映った。自らの身体が発するシャイア神の光が、その背表紙を照らしている。
リディアの願いは、声にするまでもなくシャイア神に伝わっていく。いくつかの本が光を放ちはじめ、点滅しながら数を減らすと、右上方の重たそうな一冊だけが残った。
「お願い……」
リディアはその下に立ち、腕を伸ばした。届かないその本が、シャイア神によって引き出される。そしてゆっくりと下りてくると、リディアの両手に収まった。少しずつズッシリとした重みが、リディアの両腕にかかってくる。
「ありがとうございます」
その本を落とさないように胸に抱きしめると、リディアは感謝を口にした。光はそれに答えるように、一度大きく膨れ上がると、リディアの胸へと収まっていく。
もう一度目を閉じ、完全にシャイア神が去るのを待つと、リディアは気持ちを落ち着けるように大きく一呼吸して目を開けた。
シャイア神の感情が、まだ胸に残っている。シャイア神にとってフォースはとても大切な存在だと、身に染みて感じた。
もしも自分に子供がいたら、きっとこんな風に愛おしく感じるのだろう。そして、もしかしたらシャイア神も、自分の持つ愛情を同じように感じてくれているのかもしれない。
リディアは、今自分がフォースに対して母親のような愛情を持っていることが可笑しく、クスクスと笑い声を漏らした。
その気持ちを抱えたまま、リディアはランプの火を大きく戻し、机に本を置いて読み始めた。シャイア神の感情が残っていても、本に目を落としたその瞳は、完全にリディアの色に戻っている。
ふと、後ろで本棚の側面をノックするように叩く音が聞こえ、リディアは振り返った。グレイが笑みを浮かべて立っている。
「ここにいたのか。そんな厚い本、すぐには読めないだろ。上で読めば?」
「おかえりなさい」
リディアは立ち上がり、タスリルと一緒に呪術を調べて戻ったのだろうグレイに向き直った。グレイの後ろから、黒い影が前に出てきてフードを外す。タスリルだ。