レイシャルメモリー 〜蒼き血の伝承〜
第2部6章 諸種の束縛
2. 孤独の定義 01


「完全な幽閉の体勢を取るようだ」
「塔の扉を閉じるのですね。待っていました。予期していた通りです」
 神殿の石の壁に、二つの低い声が響く。祭壇にあるロウソクの炎が、ジジッと音を立てて微かに揺れた。
「これで影響力はほとんどなくなったのだ、放っておいてもいいのではないか?」
 老齢の神官が、マクヴァルの顔をのぞき込むように見上げる。マクヴァルは、エレンの面影の重なるフォースの顔を思い浮かべた。
「不穏な空気は排除しておいた方がよいでしょう。今なら動けます」
「だが、無理をして事を荒立てる必要はないだろう」
 苦笑の交じった声に目をとめ、マクヴァルは眉を寄せる。
「荒立てるですと? 神の意志に反している時点で、すでに荒立てているのです。小さな傷も出来うる限り修復していかないと、取り返しのつかないことになりかねません。ましてやレイクスの目は守護者の色なのです」
 今までも神の守護者を見つけ次第、黒曜石の鏡に封印してきた。助けを求める神の声を聞かれるなど、とんでもないことなのだ。封印はこれからも続けなくてはならない。
 その強い視線を受け止め、老齢の神官は苦笑を浮かべた。
「私も歳をとったようだ。そなたとは違い、一度死んだらこの世に私の意識が戻ることはない。神をなくす恐怖も薄れてしまっているのかもしれませんな」
「いえ。お任せいただければそれで。この世界が神を失うようなことが、あってはなりますまい」
 そう言いながらも、マクヴァルは孤独感を振り払えなかった。事実を知っている者は、どんどん死に絶えていく。この先、残るのは自分一人だということも、充分身に染みて分かっている。
 だが、自分が神を内包し続けることで、この世界に神をとどめておけるのだ。そうなれば今の孤独など、取るに足りない。そして自分は、この世でなによりも強い力を持つ人間になる。ならば自然に、自分こそがこの世の秩序となっていくだろう。
 この世界を神の力で守り通す。この世を作ったからには、神であろうと最後まで責任を持ってもらわねばならない。その邪魔をされないためにも、シェイド神を助けようとする神々の降臨を解いて一部を取り込み、二度と降臨ができないようにしてしまう必要がある。
「多少大がかりでかまわん。巫女の拉致も進める」
「どのように?」
「幸いなことにナルエスが戻っている。ジェイストークを操って密命を下せばよい。ジェイストークが寝入るのを待って行動に移す。準備を頼む」
 神官はマクヴァルに向かって頭を下げた。それを見てうなずくと、マクヴァルは後方を振り返り、祭壇の影に言葉を向ける。

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