レイシャルメモリー 2-03


「そなたがレイクスを許せないのは信仰心があるからで、ニーニアを守りたいのは信仰心がないからなのだな。どちらが本当のそなたなのだ?」
 その言葉に驚き慌てたのか、リオーネはクロフォードと向き合っていた身体を斜に構え、うつむき加減の視線をこちらに向ける。アルトスはその視線を、なにも言わずにまっすぐ見返した。
「私は……」
「そなたは、どうするのが一番の選択だというのだ」
 繰り返されるクロフォードの問いに、リオーネは口を閉ざしたままだ。何も言わなくても、リオーネがフォースさえいなければと思っていることは間違いない。クロフォードもそれを察したのだろう、悲しげな瞳で微かな笑みを浮かべた。
「私にとっては、レイクスも大切な息子なのだよ。そなたも同じように思えとは言えんが」
 クロフォードに見透かされたことに驚いたのだろう、リオーネは一瞬目を見張り、急ぎ頭を下げる。髪を結い上げているその横顔が、アルトスの目には青白く映った。
「今はこれが最善の選択だと思っている。騒ぐことはない、状況を見ながら判断していけばいいことだ。分かるな?」
 クロフォードの問いに答え、リオーネの口から、はい、と絞り出したように重々しい返事が発せられる。クロフォードは、そんな声の返事にも満足したのか一度大きくうなずくと、リオーネに背を向けるように身をひるがえした。
「陛下……」
 リオーネの弱々しい声に足を止め、クロフォードは首だけで振り返る。
「なんだ?」
「私は、どうしたら……」
 王位継承権第一位の者を侮り軽んじるなど、普通に考えれば処分の対象になる。だがクロフォードは、リオーネに向き直り、微笑みを返した。
「そのままでよい。レイクスには、そなたともお互いに分かり合って欲しいと思っているのだよ。もちろん、そなたの理解も期待している」
 クロフォードの言葉に、リオーネはホッとしたような、しかし悲しげな表情を浮かべた。
「レクタードはどうした?」
 ふと思い出したように、クロフォードが尋ねた。リオーネは見当が付かなかったのか、視線を泳がせ目をしばたたく。
「いや、分からんならよい。扉を閉める前に、レイクスと会わせようと思っていたのだが」
 リオーネの不安げな瞳に、クロフォードは笑みを返した。
「今度いつ会わせられるか分からんからな。まぁ、かまわん」
 クロフォードは一瞬アルトスに視線を投げてから部屋を出て、警備についている騎士二人の間を通り抜けていく。アルトスはクロフォードの後に続こうと、リオーネに向かって急ぎ頭を下げた。その視界にある、リオーネのドレスの裾が揺れる。

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