レイシャルメモリー 2-05
「確実に拉致するためにも、しっかり手筈を整えねばなりません。ことを起こす判断はこちらでいたします。ご心配なさいますな」
クロフォードはそう言いながら外に出ると、首だけで振り返った。
「ここから先はご遠慮いただきたい。今しばらくは、もうどなたにもレイクスを会わせる気はありません」
クロフォードは塔に向き直ると、そのまま歩を進めていく。アルトスは、神官の冷ややかな笑みをさえぎるように扉を閉め、クロフォードの後に続いた。
塔の前には、二十人ほどの兵士が集まっていた。テグゼルの金髪が、兵士の間からチラチラと見え隠れしている。
兵士が一人こちらを向くと、慌てたように他の兵士達に声をかけ始めた。クロフォードの到着を伝達したのだろう、兵士達がサッと左右に別れ、膝をついて頭を下げる。クロフォードは左右の兵士に視線を向けると、その間を進んだ。
塔の入り口横には、厚い石の扉が置かれていた。その側に立つテグゼルが、クロフォードに敬礼を向ける。
「頼んだぞ」
それだけ言うと、クロフォードは塔の中に入った。アルトスもテグゼルと敬礼を交わし、塔の内側へと移動する。
「始めるぞ」
テグゼルの声で、兵士達が一斉に動き出した。石の扉が少しずつ動き、日差しがさえぎられていく。
人が通れないだろう程に扉が移動すると、クロフォードはアルトスに笑みを向けた。
「先に行く」
クロフォードは、そう言うが早いか、階段を上っていった。アルトスは扉の隙間から光が漏れなくなるのを待って、クロフォードの後を追った。
フォースがいる部屋の二つ下の扉から、ソーンが顔を出している。クロフォードが通った気配を察してのぞいていたのだろう。こちらに気が付くと、ヘヘッと笑って首を引っ込め、ドアを閉めた。アルトスは一瞬笑みを浮かべただけで、さらに上を目指す。
フォースのいる部屋の前には、見張りのようにジェイストークが立っていた。
クロフォードが来たからといってジェイストークが退室する必要はない。だがジェイストークは、塔の扉を閉めたとの報告をするまでの間だけでも、親子水入らずでと考えたのだろう。
アルトスが階段を上りきって隣に立つと、ジェイストークは抑えた声を向けてくる。
「まだ迷っていらっしゃるようだ」
クロフォードは、フォースをメナウルに行かせることについては、すでに迷いはない様子だった。さらに、心配げなジェイストークの表情で、巫女を拉致するか否かで迷っていると言っているのだと想像がつく。