レイシャルメモリー 2-06
「拉致などしない方がいい。レイクス様は、一刻も早くシャイア神と一緒に行動された方が安全だ。なにより戻られるのを信じて待った方が、いさかいが起きずにすむだろうに」
「結局は巫女にも来ていただくことになる。それが先になっても、しっかり護衛さえすれば、変わりないだろう」
その言葉を聞いて、ジェイストークは苦笑した。
「だが、陛下が手元に置きたいのは、レイクス様のすべて、身体も心もだ」
確かに拉致を実行してしまうと、穏便にことを済ませるのは難しくなるだろう。だが焦点が側に置きたい、置きたくないということならば、感情的な問題は二の次でいい。
「アレが陛下の心情を悟ればいいことだ」
「それは……」
難しいだろう、と、声に出しては言わなかったが、ジェイストークの顔がそう物語っている。アルトスが顔をしかめると、ジェイストークはため息をついた。
「このような厳しい陛下のお気持ちを理解なされるほど、レイクス様は柔軟な方ではないだろう」
そんなことは分かっている。アルトスはチラッとジェイストークを見やると、小さく息をついた。
「できる、できないの話しではない。理解しなければならないと言っている」
そう言い捨てたアルトスに視線を向け、ジェイストークはほんの少しの苦笑を浮かべる。
「実はナルエスにこっちまで戻ってもらったんだ」
「ああ。レイクスをメナウルに送り届けるためか」
アルトスの言葉に、ジェイストークは無言のまま視線を返した。
「まさか、拉致の命令伝達を阻止しようとでも?」
アルトスは胡散臭げな目で見返したが、ジェイストークは肩をすくめただけで何も答えない。
「影を取り除けた時、除けなかった時。陛下はその両方を考えて行動しておられる。拉致に関しては、どちらに転んでも無駄にはならない」
何を言っても駄目だと思ったのか、ナルエスの存在を知っておけば充分だと思っていたのか。ジェイストークは、アルトスが拉致を否定しないことに対して、何も言及しなかった。ただその表情から、拉致には反対だという気持ちが見える。
「アルトスがまいりました」
ジェイストークはドアに向き直ると、中に声をかけた。クロフォードの、入れ、という返事が聞こえる。ジェイストークの難しい顔を見ても、アルトスは先の言葉を訂正して見せようとは思えなかった。
ドアを開け、ジェイストークと二人、入室する。
「重たい石の扉だ。あれを閉めてしまえば、この塔には私の部屋からしか来られない」