レイシャルメモリー 2-08
ヴァレスからこのマクラーン城まで、いったい何日かかっただろう。ここへ来る時は気が滅入ってくるので、五日で数えるのをやめてしまった。密行になるので予定通り進めないだろうこともあり、ハッキリ何日かかるのかが分からないことに苛つく。
それでもフォースは、帰れるという事実が単純に嬉しかった。しかも、戦を本当にやめさせられるのかもしれないのだ。ただ、やらなければならないことは残っている。それはとても重要なことだし、まだ解決できることかも分からないのだが。
そんなことを考え始めると、なおさら眠れなくなる。フォースは上を向いていた身体を横に向けた。
視界に入ったドアが、弱々しくカタッと音を立てた。フォースは顔をしかめ、身体を起こす。クロフォードの部屋を抜けてくるしかここに来る方法はない。だとしたらクロフォード自身か、会わせたがっていたレクタードかもしれない。
「フォース?」
レクタードの声がして、その後ノックの音がした。寝ていたら戻るつもりなのか、控え目な声と音だ。フォースは、今開ける、と声をかけながら鍵をまわし、ドアを開けた。レクタードは、弱い明かりの灯ったランプを手にして立っている。
「入って」
そう言って部屋を向きかけたフォースより先に、レクタードがフォースに背を向けた。
「え?」
「来いよ。いいモノ見せてやる」
レクタードはフォースを振り返りもせず、サッサと階段を下りていく。
「ちょっと待てよ。いったいどこに……」
フォースがかけた声にチラッとだけ振り返り、レクタードは足を止めずに進めている。レクタードの姿が見えなくなりかけ、明かりが届かなくなりそうになってから、フォースは慌てて後を追った。
塔の扉は閉められているので、行ける場所はクロフォードの部屋への抜け道か、ソーンの部屋だ。そのどちらかへ行くのだろうと、フォースは思っていた。だが、どちらのドアにも足を止めず、レクタードは階下へと進んでいく。
「そっちは何もないんじゃ」
フォースはそう言いかけて、入ったところから少し降りた突きあたりで、何もないが出ると、ジェイストークから聞いたことを思い出した。
「まさか、いいモノって……」
フォースの疑わしげな声に一瞬だけ振り向くと、レクタードはククッとノドで笑い、またすぐ足を進めていく。
「幽霊? 違うよ。怖いのか?」
「怖けりゃ、その真上になんていられないだろ。そうじゃなくて」
聞いているのかいないのか、レクタードはサッサと先に進んでいく。