レイシャルメモリー 3-03
その言葉で、アルトスが塔の向かい側の屋根を見上げた。それを見て、ソーンがうろたえたようにうつむく。ジェイストークは、ソーンの顔をのぞき込んで視線を合わせた。
「レイクス様が大切にしていたモノが、そのまま残っているんだね?」
ソーンは口をギュッと結んだまま大きくうなずいた。アルトスが不意に、ソーンの目の前に手を差し出す。
「分かった。行こう」
アルトスは、ソーンが恐る恐る差しだした手を取り、早足で城内への扉へと向かっていく。ジェイストークは、わけが分からないまま、慌てて二人の後に続いた。
***
両腕を引っ張られる痛みで、フォースは意識を取り戻した。
目の前には、壁の石と同じ材料でできているらしい腰の高さほどの台があり、その向こう側にはランプでも置いてあるのだろうか、弱々しい光が漏れている。
その光で、石壁が一部分だけ張り出し、その脇に隙間ができているのが見えた。石の扉と出入り口なのだろう。
ゆっくり首を巡らせてみると、どうやら自分はあまり広くない石でできた部屋の壁際にいて、天井の左右から伸びた鎖で腕を吊されているらしかった。
服がはだけている。外されてしまったのだろう、ペンタグラムが無い。確認はできないが、服の袖は通ったままなので、女神の媒体である布は無事かもしれない。
足はかろうじて地面に届いていた。つま先で立って少しでも腕の負担を軽くしようとすると、どのくらい吊されていたのだろう、腕に蓄積されていた無理が痛みになって襲ってくる。
その辛さに足から力を抜き、元の体勢に戻ろうとしてみたが、どっちにしろ苦痛から逃れられそうになかった。ならば少しでも腕が復活するようにと、足を伸ばしてつま先で身体を支える。背を壁に預けると、ほんの少しだが楽な気がした。
ふと、正面にある石でできた台の向こう側が、明るさを増した。壁が白っぽい石のせいか、影にしか見えていなかった台の上に、黒い鏡と短剣らしきモノが置いてあるのが目に映る。
そしてその向こう側に、白く長いドレスの女が立ち上がった。手にしているランプがまぶしくて、フォースは顔を背ける。
自分を襲ったのは男だった。犯人は複数なのだろう。相手が誰であれ、この体勢ではどうしようもないとは思う。
「気が付いたのね。私を覚えてる?」
女はランプを石台の上に置くと、台を回り込んで前に立つ。フォースはランプのまぶしさに目を細めて女の顔を見た。
その女は、溶けてしまったデリックの娘、サフラだった。アルトスがサフラについて、何者かに手引きされ逃亡した、と言っていたのを思い出す。
フォースが視線を逸らすと、サフラは口の端に冷めた笑みを浮かべ、しつこく顔をのぞき込んでくる。
「返事は? 覚えてるって聞いてるのよ?」
「ホクロ女」