レイシャルメモリー 3-05
「久しぶりだな」
ゼインはフォースをチラッとだけ見やると、ほとんど無表情で台の上に燭台を並べ、ロウソクの準備を始める。
「ヴァレスの神殿で王位継承権一位のエッグを見た時は驚いたよ。嘘でも冗談でもない、ホントに持っていやがったってね」
「お前、一体……」
フォースの声に振り返りもせず、ゼインはただロウソクを立てていく。
「ドナの井戸に毒を入れ、処刑されたのが俺の父だ。父は産まれた時にはライザナルの密偵だった。三世ってヤツでね」
ゼインはロウソクを立て終わると、ランプを取ってフォースに向き直った。そのランプをフォースの目の前にかざす。
「俺はお前を見張るために、騎士にならなければならなかった。四世だぞ? 何が密偵の子だ。しかもメナウルで産まれて、他人の家で育ったのにな」
フッと鼻で笑うと、ゼインはランプから手にしたロウソクに火を灯した。その火を先ほど立てたロウソクへと移していく。
「それでも騎士だ。待遇はいいし、そりゃあ必死だったさ。だが、努力しようが祖父のコネを使おうが、お前には追いつけやしない。祖父には叱られるし、散々だ」
その言葉のいくつかが、フォースの頭に引っかかった。祖父。コネ? 叱られる? ふと、神殿執務室でゼインを罵倒していた声を思い出す。
「まさか、……クエイド?」
その名前にゼインは手を止め、冷笑を浮かべて振り返った。
「そう、二世ってヤツ。でも先の皇帝陛下に可愛がられてあそこまで出世したら、自分の立場を忘れて地位を守り通そうと必死になってしまった。父は祖父に反発して、ライザナルにいいように使われた末にアレだ」
ゼインは親指を立て、自分の首を掻き切るように動かす。
「お前が存在する限り、いつ足元が揺らぐか分からない。祖父はお前を殺そうと躍起になったよ。お前を十四で騎士に推挙したのも、サッサと前線に送ったのも、すぐに死んでくれると思ったからだそうだ」
肩をすくめて苦笑を浮かべると、ゼインはフォースに背を向け、ロウソクに火を入れるのを再開する。
「ところがお前は全然思い通りにならなくてな。親子三代、お前に振り回されたってわけだ。でも、それもこれで終わりだ」
ククッとゼインがノドの奥で笑い声をたてる。フォースは声になりそうなほど大きなため息をついた。
「バカじゃねぇ?」
「はぁ? お前、自分の立場、分かってんのか?」
ゼインはまた手を止めると、首だけで振り返る。フォースはゼインを無視するように視線を逸らした。
「分かってるさ。殊勝にしてたら逃がしてくれるわけでもないだろ」
「そりゃそうだ」