レイシャルメモリー 3-06
笑みを浮かべた返事をしたが、やはり激怒していたのだろう、ゼインは身体を向き合わせるついでのようにフォースの腹を殴打した。ゼインは、声を立てずに苦痛に耐えているフォースと、顔を突き合わせる。
「お前を邪魔だという人が他にもいる。これ以上シェイド神と話しをされると困るから、鏡に封じて欲しいんだそうだ」
その言葉はマクヴァルが言ったのだと、フォースには容易に想像がついた。しかもこの鏡に短剣、封じるという言葉。やはり呪術を利用しているらしい。ゼインは勝ち誇ったように笑みを浮かべる。
「神に統制されていない自然は、怖ろしいものだと聞く。降臨のない、神のいない世界なんて、きっとその先は滅びしかないだろうよ。こんな状況で神を守護しようだなんて、人間の考えることじゃない」
降臨のない、神のいない世界。マクヴァルがそう言い、それを恐れているのだろうか。自分の想像が当たっていれば、だから呪術で神の力を使える状態にしたとでも言いたいのかもしれない。だが、神の力も人間が使う時点で、神の意志のないただの得体の知れないモノだろうとフォースは思う。
ゼインはフォースの眉間を指差した。
「お前を鏡に封じたら、後は待つだけだ。あ、そうそう。実は、お前を鏡に封じる報酬は、成婚の儀の後のリディアさんなんだ」
その言葉に息を飲み、フォースは気を落ち着けようと大きく息を吐いた。
「そう簡単に拉致できるかよ」
「簡単じゃないだろうけどね。実行するのはライザナルだ。お前は行方不明になるんだし、それこそ簡単にあきらめたりはしないだろうよ」
ゼインの言葉に、フォースの動悸が激しくなる。ゼインは薄笑いを浮かべたまま言葉をつないだ。
「鏡の中から外は見えるって話しだから、成婚の儀も、俺がリディアさんをどうやって抱くかも、全部見せてやるよ」
フォースが怒りを込めて向けた視線を、ゼインは薄笑いで受け止めた。ゼインはフォースの首に腕を当て、壁に押さえ付ける。
「お前のことなんざ微塵も思い出せない、頭でモノを考えられなくなるくらい抱きつくしてやるよ。まぁ、お前は鏡の中でリディアさんに二度と会えないことを願っていればいいさ。無駄だろうけど」
ゼインはフォースから手を離すと、大きな声で朗笑した。
「あ、リディアさんのペンタグラムは、ちゃんと返しておくから。いや、お前が持っていたからって形見にされちゃたまらないから、俺がもらおうと思ってるんだけどね」
ゼインは自分の襟元から鎖をたどり、ペンタグラムを引っ張り出すとフォースの目の前にちらつかせた。
「リディアさんと一緒に暮らせるなんて、考えるだけで嬉しいよ」
「どういうこと……?」
サフラの高い声がゼインの言葉をさえぎった。ゼインはほとんど無表情になり、サフラを振り向く。
「リディアって誰? 一緒に暮らすって。私はどうするの? もうどこにも行く所なんて無いのに」