レイシャルメモリー 〜蒼き血の伝承〜
第2部6章 諸種の束縛
4. しがらみ 01
石室を出ると、そこはレクタードに連れてこられた塔の地下だった。途中の部屋に食料や水が置いてあったのを見ると、ゼインとサフラはここに隠れ、塔の入り口がふさがれるのを待って行動に移したのだろうと推測できる。
そこにちょうど騎士数人が階段を下りてきた。それぞれフォースに敬礼を向けてくる。先頭にいた騎士の表情が緩んだ。
「レイクス様。ご無事でしたか」
その、思い切り息を吐き出し、見るからに安心した様子の表情が、再び難しく歪められる。
「でも、殴られたんですね。手首の拘束の跡も傷に」
「こんなの平気だ」
フォースが苦笑を向けると、騎士は遅れて出てきたジェイストークに、不安げな顔を向けた。
「陛下は心配されますでしょう。責任問題にならなければいいのですが」
その言葉に、フォースは眉を寄せた。
「責任って一体。あ、俺のか?」
「は? いえ、決してそのような。でも、レイクス様にそう言っていただけると安心です」
その騎士の笑みが、優しげなモノに変化し、周りの騎士もホッとしたように胸をなで下ろす。
「中には犯人の遺体と、気を失ったサフラがいます。確保をお願いします。処置処遇は追って連絡します」
ジェイストークの言葉に、テグゼルたち騎士は敬礼を返し、中へと入っていった。
「陛下の親書もありました。これの重大さに気付かなかったんでしょうか、封印もそのままです。これが神殿に漏れたら、大変なことになるところでした」
ジェイストークはそう言いながら、手にした親書をフォースに渡す。
「間抜けだな」
フォースはそう返したが、実際は、ゼインは自分に恨みを晴らそうと一生懸命で、親書だと分かっていて見向きもしなかったのかもしれないと思う。フォースは苦笑しながら親書を受け取った。
「歳をとった神官が、レイクス様が逃げたと勘違いするような言い方をしたらしいのです」
ジェイストークは階段を上り始めた。フォースは黙ってその後に続く。アルトスはフォースの後ろに付き従い、声をかけてくる。
「だが、塔から走り去るレイクス様らしき影を見た、という言い方をしていた。問いただせば見間違いと言われて終わりだろう」
そのアルトスの言葉に、フォースは眉を寄せた。その状況では、何もないとされていた塔の中は、間違いなく捜索しないだろうと思う。
「だけど、ここにいるってよく分かったな。下には何もないなんて言っていたから、誰も来ないだろうと思ってた」
フォースの言葉に、ジェイストークの声が明るくなる。
「ソーンが気付いてくれたんですよ」
「ソーンが?」
その意外さに声を大きくしたフォースに、アルトスは軽くため息をつく。