レイシャルメモリー 4-02


「あの鳥が屋根にいた。窓から出たのなら連れて行くはずだと」
 フォースが言葉に詰まったのを感じたのか、前を行くジェイストークが笑顔でチラッとだけ振り返った。
「ソーンは、窓から出たら見えるから忘れないはずなのに忘れている。だからレイクス様は外に出ていない。そういう風に言ったんです」
「ソーンはお前との約束は守ったぞ。前に窓から外を見た時、お前の反応が異様だったことを思い出したから気付いたが」
 アルトスの言葉に肩をすくめ、フォースは振り返って苦笑した。
「いやもう、そのままバッチリ俺の鳥が屋根にいるって言ったとしても、ソーンを怒ったりできないよ。恩人だ」
 フォースがそう言うと、アルトスは安心したのか、フッと息をついたのが背中に聞こえた。
 ジェイストークは、クロフォードの部屋へと続くドアを開けて入っていく。フォースはファルがいると知って、先に部屋へ戻りたいと思った。だが、ここまで来てごねられるのも面倒だと考え直し、まずはクロフォードを優先することにしてジェイストークの後に続く。
「残念ながら、状況は何一つ変わっていません。いえ、むしろ変わらなくてよかったのかもしれませんが」
「そうだな」
 フォースはジェイストークの言葉にうなずいた。
 確かに、自分が出発した後にこんなことが起こったら、大変なことになっていた。神殿に黙って自分を逃がしたと分かれば、当然何かとうるさくなる。それこそ神の力を使った実力行使もあるかもしれない。
 それを思えば、むしろゼインやクエイドのことが分かって、儲け物だったと思うべきだろう。実際の被害は殴られてできた傷と手首に残った拘束の跡くらいだ。
 だが、ドナの事件はやはり自分に関連して起こったことだったのだと、ハッキリ分かってしまったのは辛かった。自分がどこにいても起こった事件には違いないが、実際その場景を思い出すと、とても犯人だけが悪いとも言い切れそうにない。
 押し黙ったフォースを、ジェイストークが心配げに振り返った。フォースは苦笑を返してまた足元に目をやる。
「諜報部ってのは、割と個人主義的にできていると思っていたんだけど、そうでもないんだな」
「は? 繋がりは縦一本くらいですよ?」
 不思議そうな声のジェイストークに、フォースは顔を上げた。
「二世とか三世ってのも、繋がりは残るのか?」
「ゼインのことですね。繋がりは無いです。ただクエイドが利用しやすい立場にありましたからね」
 フォースは突然出てきた二人の名前に顔をしかめる。
「どうしてクエイドのことまで」
「私がゼインの隊にいたのをお忘れですか?」
「あ……」

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