レイシャルメモリー 4-04


「冗談じゃない。そんなモノまで責任になるなら、なんにもできないだろうが」
「そう思っていただけるんですね。では、レイクス様もドナのことで、ご自分を責めたりなさらないでください」
 その言葉に、フォースは狼狽の色を隠せなかった。ジェイストークはフォースの顔が見えるだけ、ほんの少し振り返ると、再び前を向いて歩を進めながら言葉を継ぎ足す。
「誰も産まれてくることに責任はありません。しかも、レイクス様の場合は神が存在を望まれたのでしょうから、責任があるとしたら神にでしょう」
 事も無げに言ったジェイストークは、フォースが呆気にとられているのを知ってか知らずか振り向きもせず、見えてきた通路の突き当たりを指差した。
「そこです」
 ジェイストークは、くぼんで見える場所で左を向き、そこにあるドアをノックする。
「レイクス様をお連れしました」
 その言葉が終わるか終わらないかで、ドアが開けられた。自分で開けたのだろう、ドアの向こうにいたクロフォードが、ジェイストークが開けた道を通ってフォースの前まで来る。
「申し訳ありません。思い切り油断してしまって」
「そんなことは、どうでもよい。生きていてくれてよかった」
 クロフォードはフォースを掻き抱いた。殴られた部分に痛みが走ったが、フォースは顔を歪めただけで声を出さなかった。クロフォードの向こうにいるジェイストークはそれに気付いたようだが、クロフォードを止めることもできず、おたおたしている。
 腕が緩むと、フォースは平静をよそおい、顔をのぞき込んでくるクロフォードに恥ずかしげな苦笑を返した。
「顔を殴られたのか。大丈夫か?」
「平気です」
 フォースが努めていつもと変わらないよう、ゆっくり返事をしたことに苛ついたのか、クロフォードはフォースの手を取り、部屋へと引き入れた。
「リオーネ、手当てを頼む」
「は? と、とんでもない、そんな」
 フォースは慌てたが、クロフォードが手を離さないため、机の側に立っていたリオーネのところまで連れて行かれた。どうぞ、と、リオーネが椅子を引く。そこに駆け寄ってくるレクタードに、フォースは向き直った。
「フォーじゃなかった、レイクス! 大丈夫か?」
 レクタードの心配げな顔に、フォースは鼻で笑ってみせる。
「全然平気。このくらいのケガならガキの頃から日常茶飯事だ」
「なんだと?」
 不機嫌な声に目をやると、クロフォードが思い切り顔をしかめていた。余計なことを言ったと思い口をつぐんだフォースに、レクタードは満面の笑みを向けてくる。
「まぁ座って。黙って手当てされてくれ」

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