レイシャルメモリー 4-05


 レクタードはフォースの肩に手を置き、椅子の前まで誘導すると、手に力を込める。フォースはその力に黙って従った。場所を入れ替わって顔を寄せてくるリオーネと目が合い、フォースはどうしていいか分からず目を閉じる。
「いったい何が起こったのか、俺には全然分からないんだ」
 レクタードが不安げな声を立てた。
「気が付いたら縛られていて、どこだかサッパリ分からない。しかも男の方が、フォースがしていたペンダントを見せて、お前は共犯者だなんて言ってくるし。俺、何かしたのか?」
 レクタードの問いに、フォースは傷の手当てを受けながら、昨晩レクタードがとった行動を伝えた。夜中に部屋を訪ねてきて、見せたいモノがあると階下に連れて行かれたこと、いきなり手をつかんで引き摺られ、抵抗して引き倒したら気を失ったこと。
 リオーネが離れる気配にフォースが目を開けると、リオーネがイヤに青ざめているように見えた。レクタードはまだ胸騒ぎを抑えられないといった顔でフォースを見ている。
「いつものレクタードとは様子が違った。きっと操られていたんだと思う。あの溶けてしまった兵士のように」
 フォースの言葉に、レクタードの表情がさらに強張った。
「操られるだなんて。そんなことが……」
「その通りです」
 突然リオーネが口を開いた。リオーネは驚き集まった視線を一つずつ見返すと、気を落ち着かせるためか、肩が上下するほどの息をつく。
「マクヴァルは、人を操るすべを知っているんです」
「リオーネ、どうして……」
 クロフォードは眉を寄せ、疑わしげに目を細める。リオーネは、その視線を避けるようにうつむいた。
「エレン様とレイクス様を拉致するよう、命令を出したのは私です。もちろん私の意志ではありませんでした。でも、私なのは確かなんです」
 フォースは、ただ黙ってそれを聞いていた。その言葉にクロフォードが顔を歪めたのが目に入ったのか、リオーネはしっかりと目を閉じる。
「私がだました兵士が斬られるのを見て、その衝撃で我に返りました。そこにはマクヴァルがいて。お前も共犯者だ。口外するようなことがあったら、お前も終わりだ、と……」
 フォースは密かにジェイストークに視線を向けた。ジェイストークは何を考えているのか、視線を落としたまま動かない。
「陛下にお伝えするべきか悩みました。ですが、人を操るほどの力を持っているという恐れと、エレン様がいなくなるという恩恵もあり、口外できませんでした」
「恩恵、か」
 ボソッとクロフォードがつぶやいた。そのつぶやきに、はい、と返事をしつつ、リオーネが頭を下げる。

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