レイシャルメモリー 4-06


「陛下が私のところへ帰ってきてくださると思いこんでしまい、何が起こったのかお伝えしませんでした。すぐにお伝えすれば、お二人を救うこともできたかもしれません。ですから私はマクヴァルが言ったように共犯者なんです。でも、まさかレクタードまで利用するなんて……」
 リオーネは顔を上げると、椅子に腰掛けたままのフォースの前にひざまずいた。
「どうか、お願いです。レクタードは決して共犯者などではありません。どうか、レクタードだけは」
 リオーネが深くお辞儀をするのを、フォースは呆気にとられて見ていた。ふと我に返ると席を立ち、フォースはリオーネに手を差し出す。
「立ってください。どちらも共犯者ではありませんよ」
「ですが、レイクス様。私は……」
 リオーネはフォースが差し出した手を見て、うろたえている。フォースは苦笑した。
「そういう言い方をするなら、母も共犯者かもしれないんです」
 その言葉に、リオーネの定まらなかった視線が、フォースに注がれる。
「母は、神の守護者と言われる種族に伝わる詩を知っていました。それが実現して行くに連れ、自分がその詩で語られているのだと分かったはずです。反目の岩で母が父に、あ、いえ、ルーフィスに会った時も、アテはないがメナウルに住みたいと何度も言っていたそうですし」
「エレンが、そんなことを……」
 クロフォードのつぶやきにうなずき、フォースは言葉を継ぐ。
「仮定にしかならないのですが、その詩の示す運命をたどって、自らメナウルへ行った可能性もあるんです」
 フォースは、気が抜けたように床に座り込んだリオーネに、もう一度手を差し出して立ち上がらせ、自分が座っていた椅子に座らせる。
「今となっては母がどんな気持ちでここにいたのか、メナウルへ行くことを受け入れたのかは知りようがありません。もう、すべて過去です。母の感情がどうであれ、何も変わらないんです」
「……、そうだな。もう過去なのだな。私も過去にしないといけないのだな」
 クロフォードが大きくため息をついた。リオーネはフォースに向き直る。
「許してくださるんですか……?」
「許すも何も。共犯とは違う、ただ動かされただけです。それに俺は、この世に存在できたことも、メナウルで育てられたことにも感謝しています。母のことを色々知って俺なりに考えたことで、このまま吹っ切れると思いました。もう、こだわりません。今の俺には、もっと大事なことがあるんです」
 フォースの言葉に、リオーネは両手で顔を覆った。その隣にレクタードが立ち、背中に手を添える。
「お前はあの詩の通り、根本からメナウルの人間に育ってしまったんだな」
 ため息のような息で言葉にしたクロフォードに、フォースはうなずく代わりに頭を下げた。クロフォードはフォースの正面に移動する。

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