レイシャルメモリー 4-07
「だが、お前はエレンが残してくれた私の息子だ。何をどう考えようと、どんな行動を起こそうと、それは変わらん」
その言葉にフォースが顔を上げると、クロフォードは何度かうなずいて見せた。
「親書は無事だったのか?」
「はい。封印も無事です」
フォースの返事にホッとしたように息をつき、クロフォードは穏やかな笑みを浮かべる。
「これから塔の部屋の窓をふさぐ作業を行う。その間は部屋にいて欲しい。終わり次第、……」
クロフォードの笑みが歪む。フォースは、分かりました、と、軽く頭を下げた。クロフォードはフォースの両肩に手を乗せる。
「もう一度言う。バレた時点でお前は逃げたということにする。だが、都合のいい話だが、どうか戻って欲しい。あの詩が本当なら、ライザナルを救えるのはお前しかいない」
必ず戻ります、と、フォースはしっかりとうなずいた。クロフォードはその心配げな顔を、ドアの側に立ったままのアルトスに向ける。
「レイクスがメナウルに入るまでの護衛を頼む。名目は、そうだな、拉致の援護としておけばいい」
御意、と一言返事をすると、アルトスは深々と頭を下げた。
***
「拉致の援護って言ったよな」
フォースは塔の部屋、ドアのところから、中を確認しているアルトスに声をかけた。
「ああ。そうおっしゃっていた」
「本隊が別にあるのか」
ムッとした声を出したフォースに、アルトスは冷たい視線を向ける。
「当たり前だ。お前が逃げたら拉致を実行すると、前々から準備だけはされていた」
アルトスの言葉に、フォースはため息をついた。あるかもしれないとは思っていたが、本当にあると聞くのはやはりいい気分ではない。
「援護なんて名目で行ったら動かなければならない、なんてことは無いだろうな」
「無い。あるとすれば、命令が下った時だ」
アルトスはドアのところまで戻ってくると、フォースとその後ろにいたジェイストークを部屋へと通した。
フォースは窓から周りを見回し、誰もいないのを確認すると、ファルを手だけの合図で部屋へと呼び寄せた。ファルは向かい側の屋根から部屋へと飛び込んでくる。
「音も声も使わずに……」
何か考え込んでいたのか、今まで静かだったジェイストークが驚嘆に目を見張った。アルトスはドアを背に立ったまま、感心したようにうなずく。
「これでは気付けなかったはずだ」
「ファル、持ってきたか?」
フォースが話しかけると、ファルは手紙の付いた方の足を差し出した。フォースはそれを抜き取ると、元いた位置に戻るよう、手で指示を出した。ファルは素直に従い、向かい側の屋根に戻っていく。