レイシャルメモリー 4-08


 フォースは、手にした手紙をそっと開いた。中は想像通りリディアの字だ。だが、小さく詰めて書いた後に、大きく走り書きのような文字で、どうか一度戻って、とある。フォースが、何かあったのかと心配になって顔をしかめると、その変化に気付いたのか、ジェイストークが顔をのぞき込んできた。
「どうしました? なにか悪いことでも?」
「分からない」
 戻れなどと、リディアには一度も言われたことがない。今なぜ、戻れ、なのだろうか。この急いで付け足したような文字が気になる。
 いつもの小さな字では、大きく分けると二つの事柄が書いてあった。一つは、身体に神を閉じこめる呪術があり、神の力を自分の意志で使えるようになること。もう一つは、神を有した者の意識は、魂が生まれ変わった後に復活できること。
 文字のことで、ジェイストークなら何か感じ取ってくれるだろうとは思うが、この内容だ。これが本当ならば、マクヴァルがたどってきた二重人格に似た状況の裏打ちにもなるのだから、それどころではないだろう。
 ジェイストークにはリディアの一言より、この手紙の内容を知りたいと思うに違いない。フォースはその手紙を、ジェイストークに差し出した。
「いいんですか?」
 そう問いつつも、ジェイストークはフォースから手紙を受け取り、文面に目を落とす。その表情は手紙を読み進むに連れ硬くなっていった。
「これは……」
「こっちに来る少し前に、メナウルで古い本が大量に見つかったんだ。それで色々調べてくれている」
 ジェイストークは、古い本、とかすかな声で反芻する。
「では、これが本当なら、父の意識はマクヴァルの意識下に、まだ存在するかもしれないと……」
「そういうことになる」
 フォースがうなずくと、緊張が解けたのかホッとしたのか、ジェイストークは大きく息をついた。
「やはりレイクス様が斬らなければ意味がないんですね。早まらなくてよかった」
「自分で斬る気だったのか?!」
 驚いて聞き返したフォースに、ジェイストークはわずかに苦笑した。
 走り書きのような文字については、やはりジェイストークには聞けそうにない。そう思った時、フォースは左腕、媒体の布が熱くなってくるのを感じ、右手で触れた。
 とたん、脳裏に白く広い建物の内部が浮かんできた。まっすぐ前を眺めていて、そこがシャイア神の神殿で、シャイア神の像の目から見ている光景だと気付く。
 まるでその場にいるような臨場感に辺りを見回すと、足元にひざまずき、頭を下げた琥珀色の髪に目がとまった。
「リディア?」
 ゆっくりと上げた顔は、確かにリディアだ。フォースは集中しようとしっかりと目を閉じた。リディアは胸の前に手を組むと、小さく口を開く。

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