レイシャルメモリー 4-09


「ファルは間に合ったんでしょうか。フォースは無事なんでしょうか。……、いったい何が起こっているんですか?」
 その言葉で、手紙が半端だったのは、シャイア神が何はともあれファルをマクラーンに来させようとしたのかと思いつく。リディアはわけが分からないまま戻れと急いで書き足し、シャイア神に従ったのだろう。
「戻ってなんて書いてしまって後悔しています。もし無理に帰ろうとしてフォースが危険な目に遭ってしまったら……。どうかフォースをお守りください。どうか……」
 フォースは、無事でいること、もうすぐ帰れることを、どうにかしてリディアに伝えられないか、せめてシャイア神に分かってもらえないかと祈った。
 だが、シャイア神がその祈りをリディアに伝えてくれる気配は少しも無い。しかも、媒体の熱と共に、神殿の光景は視界から消えていく。何も通じないその歯痒さに、フォースは顔を歪めた。
「レイクス様?」
 声をかけられて目を開け、フォースはすぐ側から心配げにのぞき込んでいるジェイストークに目を留めた。
「どうかなさいましたか?」
「いや、いいんだ」
 そう答えながら、フォースは気持ちを落ち着けようと努力した。
 自分が何を考えていようと、シャイア神はすっかり理解しているに違いない。それなのに気持ちが一方通行なのは、何か意味があるのだろうか。それとも単にシャイア神が無慈悲なだけかもしれない。
「早く帰りたい……」
 フォースは、ほとんど無意識にボソッと言葉にした。リディアをあの状態で放っておくなど考えられない。居てもたってもいられなくなってくる。
「ガキの顔になってるぞ」
 気持ちを茶化すようなアルトスの言葉に顔をしかめ、フォースはアルトスに背を向けて、南向きの窓からヴァレスの方向を眺めた。
 窓をふさぐための材料を持ってきたのだろう、階段下からのざわめきが大きくなってくる。振り向くとすぐに騎士達が姿を現し、フォースがいる南側の窓を避け、北側の窓からふさぎ始める。
 いつまでかかるだろうかとため息をつきながら窓の外に視線を戻すと、フォースの視界に黒い神官服が入ってきた。ひどく歳をとっている様子のその神官も、黙ったままこちらを見ているようだ。
 フォースが身体を回して正面を向くと、その神官は笑みを浮かべ、うやうやしく頭を下げた。側に来たジェイストークもフォースの視線に気付き、のぞき込むように神官を眺める。頭を上げた神官は、サッサと背を向けて去っていった。
 たまたまそこにいたのか、それとも窓をふさぐ作業を見に来たのか。神殿の人間というだけで、フォースには不審に思えた。ふと、ジェイストークの顔色がよくないことに気付く。
「レイクス様」
 声を潜めたジェイストークに、フォースは話を聞こうと耳を寄せた。

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