レイシャルメモリー 1-03
口に含んだお茶は、ニーニアが好んで飲んでいたお茶によく似ていた。ふと、リディアにフォースのことを聞いてみたい衝動に駆られる。
「あの騎士様は、最近いらっしゃらないんですね」
「あの?」
リディアは最初から誰のことを聞かれたのか分かっているのだろう、あまり驚きもせずに目を大きく見開き、もとの柔らかい微笑みに戻る。
「はい。今は他でお仕事をされているそうです」
そう説明することで騒がれずにすんでいるのかと、イージスは納得した。それにしても、よく外部に漏れないと感心する。
「詳しくお知りになりたいのでしたら、そちらの騎士にたずねてください」
しかもリディアは、ずっとこの笑みを保ったままだ。本当に恋人だと思っているのなら、少しはかげりが見えてもいいと思う。
「私が聞いちゃっていいんですか?」
「ええ。ですが、ごめんなさい、イージスさんにお教えしていい場所にいらっしゃるかどうか、私は知らないのですけれど」
そう言うと、リディアは静かに微苦笑した。ルーフィスに任せてしまえば安心だろうから、多分誰に聞かれても、同じ答えを返すことにしてあるのだろう。護衛に敬語を使うのはどうしてかと聞きたかったが、それを聞くと自分のかしこまった言葉にも突っ込まれそうなのでやめておく。
「あの騎士様のこと、お好きなんですか?」
この質問にも決まった答えがあるのだろうと思いつつ、イージスはリディアに問いかけた。だが、むしろマルフィの方が興味津々で、リディアの顔をのぞき込んでいる。
「そんな立ち入った話し、聞いちゃっていいのかね。で、どうなんだい?」
答えるのをやめさせるのかと思ったが、そうではないようだ。笑い出さないようにこらえながら、イージスはリディアの様子をうかがった。
「心から尊敬できる方です」
その言葉と共に頬がフワッと上気し、リディアはそれを隠すようにうつむいた。微笑みが消え、寂しげに目を細める。
その表情で、リディアの愛情は本物なのだとイージスは確信した。マルフィがポンと背中を叩くと、リディアは何もなかったかのような微笑みで顔を上げる。マルフィはリディアに笑みを見せてからイージスに向かって口を開く。
「あの子がこの街に来た頃、五歳くらいだったかね。いくら言い聞かせても毎日夕方になると家を抜け出して、ケンカしてケガして夜中に帰ってくるっていう、とんでもない不良息子だったんだけどね。いつから尊敬だなんて言われるようになったんだか」
そう言うとマルフィは、さも可笑しそうに笑い出した。リディアは変わらぬ微笑みを浮かべたままだ。
「不良息子、ですか」
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