レイシャルメモリー 1-05


 鏡が無くては、人の動きを見張る手だても無い。自分の目に頼る以外なかった。
 外に出る扉が目に入ってから、マクヴァルは歩く速度を緩めた。必要な時以外は外に出ない自分が、中庭で人に会うのは偶然とは言い難い。出入り口より手前にある左へ折れる廊下あたりでテグゼルを見つける、それが時機としては一番だ。
 はたして狙い通り、もう少しで左廊下という場所で扉が開いた。テグゼルと一緒に、ニーニアも入ってくる。
 ニーニアは不機嫌な顔をマクヴァルに向けた。マクヴァルが丁寧にお辞儀をすると、ツンとそっぽを向く。テグゼルはニーニアとの間に立って敬礼を向けてきた。
「レイクス様の様子はどうだ?」
 マクヴァルは、さも心配しているように顔をしかめてたずねた。テグゼルは少し考えるように首をかしげ、口を開く。
「お元気でいらっしゃると思います。陛下とアルトス、ジェイストーク以外は声さえうかがうこともできないのですが、警備の時は部屋で歩かれたり、動いている音が聞こえていますので」
「ケガの具合は?」
「ケガしてるの?!」
 思った通り、ニーニアが口を挟んできた。テグゼルはニーニアに笑みを向ける。
「それも大丈夫だと思います。薬を運ぶこともなくなりましたので」
「そうか。それは良かった。なにせ神殿の人間がレイクス様が逃げたと勘違いさせるようなことをしてしまったので、罪の意識があってな」
 マクヴァルはため息混じりの声を出した。テグゼルが首を横に振る。
「いえ、そのことについては、レイクス様は誰のせいでもないとおっしゃってくださったそうです」
 ふと、曲がると見せかけた廊下から、ジェイストークが近づいてくることにマクヴァルは気付いた。
「責任問題を問われるようなことはありません」
 テグゼルが継いだ言葉を聞きながら、本当ならフォースの側近であるジェイストークに実情を聞くのが一番確かだとマクヴァルは思った。だが、フォースが拉致された一件から、口すらきいていない。
 マクヴァルは、側まできて立ち止まり、ニーニアとテグゼルに挨拶をしたジェイストークをうかがうように視線を向けた。ジェイストークはいかにも話したくないふうで面倒臭そうに口を開く。
「このあいだのことですか? レイクス様もその場ではお怒りでしたよ。今はすでに何も口になさいませんが。追求するおつもりは無いようです」
 マクヴァルはジェイストークの返事が聞けてホッとした。人前で仲たがいしているように見られたくないのはジェイストークも同じだったのだろう。マクヴァルはこの機会に感謝した。

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