レイシャルメモリー 2-03


 イージスは、攻撃に転じようとしたバックスを止めるように手のひらを向け、顔と剣で奥を指し示した。マルフィとアリシアが、三人の兵士に拘束されて姿を現す。
 抵抗できなくなったバックスは、剣を持った手を下ろしつつも、背後にサーディをかばっている。一人の兵士がバックスの剣をもぎ取った。
「あんたは……」
 バックスの問いに、イージスは微笑んでみせる。
「巫女に大切な用事があるのです。二階にいらっしゃるんですよね? 連れてきてくださいませんか?」
「ふざけるな。巫女と交換できる人間なんて、いるわけがないだろう」
 バックスの言葉に、イージスはチラッとだけマルフィ、アリシアに視線を送った。
「いいんですか? この二人を犠牲にしても」
 そう言ったイージスに、歯噛みしたバックスが憎悪の視線を向けてくる。こんなところで時間をかけるわけにはいかない。イージスは肩をすくめてバックスに背中を向けた。
「まぁいいでしょう。あなた方に罪悪感を残さないためにも、直接来ていただいた方がいいですね」
 イージスは一人の兵を連れ、アリシアとマルフィを拘束している二人の兵を残して玄関ホールに戻った。ブラッドを斬った兵士も、そろそろここに着くはずだ。そう思いながらイージスは大きく息を吸い込む。
「リディア様っ、お迎えにあがりました! こちらにいらっしゃることは分かっております。早くきていただけないと、幾人か命を落とされることになりますよ!」
 あまり大きな家ではない、一枚ドアを隔てていたとしてもリディアに聞こええただろうとイージスは思った。
 耳を澄ます中、ギャッ、っと、短い妙な悲鳴が聞こえた。侵入した兵士の声に似ている、イージスがそう思った時、オープンな階段の上にリディアが姿を現した。ゆっくりと階段を下りてくる。
「なんで出てくるの!」
 ある程度下りたところで居間から見えたのだろう、拘束されているアリシアがそう叫んだ。リディアはアリシアに笑みを向けるとイージスの前に立つ。
「イージスさん。その人たちを解放してください」
 リディアが緊張した顔でそうハッキリと口にし、イージスは微笑みを浮かべた。隣にいた兵士がリディアの腕に手を伸ばす。その手にバチッと白い火花が飛び、兵士は慌てて手を引っ込めた。
「これはいったい……」
 眉を寄せたイージスに、リディアは一つ息をついた。
「シャイア様のお力の一つです。触れることを許したくない人間に対して、白い火が飛ぶんです」

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