レイシャルメモリー 2-04
「では、やめていただきましょう」
「これはシャイア様の意志であって、私の意志ではありません。私に止めることは不可能です」
リディアの返事に、イージスの隣にいた兵士がチッと舌打ちをすると、低い声をリディアに向ける。
「さっきのは俺たちの仲間かっ」
「そうです。いきなり羽交い締めにしようとなさったから、ひどく反応されたのでしょう」
「貴様っ!」
兵士のつかみかかろうとした手が、思いとどまった。リディアは少しホッとしたように息を吐くと言葉を継ぐ。
「ですが、生きておいでだと思います。シャイア様は人の命を取るようなことはなさいませんから」
イージスは兵士と顔を見合わせた。ライザナルにとっては、シャイア神は敵だ。逆にシェイド神ならメナウルの人間など八つ裂きだろうと思う。動かない状況に焦れたのか、リディアは眉を寄せた。
「私は逃げません。お願いですから、その人たちを離してください」
「こんな状態であなたが逃げないなんて、信じられるわけがないでしょう?」
イージスはリディアにそう言うと、兵士を振り返った。
「用意していた縄を。なんとか縛り上げて引いていくしかない」
兵士はイージスに簡単な敬礼を向けると、慌てて外に飛び出していった。
***
フォースとアルトスがルジェナに着いた時は、すでに出兵が終わっていた。だが、ほんの少しの時間差だし、隊はドナを大きく回り込んで進む予定になっている、大きな衝突が起こる前には止められるだけの、時間の余裕があった。
まっすぐ隊を止めに走って欲しかったが、アルトスは頑として聞き入れなかった。結局ヴァレスの防壁まで着いてきて、そこから隊に向かったのだ。
ヴァレスから軍隊が見えてはしまうだろうが、それでも止められるだけの距離は優に残っている。隊のことはアルトスを信頼して任せればよかった。
だが、イージスを含めて八人の先発隊が存在していた。まずは少人数で拘束を謀り、軍の衝突の合間を縫って連れ出す、そういう魂胆なのだろう。
問題はその隊の行き先だった。ここを出る時点では神殿へ向かうのか、それとも現在リディアのいる昔自分が住んでいた家へ行ったのかが報告されていなかったのだ。
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