レイシャルメモリー 2-05


 家を移ったことが、バレている可能性もある。しかも、いきなり警備を増やすと敵に悟られる可能性があるため、大幅な増員はされていないはずだ。もし先発隊がそっちへ行っていたらと思うと背筋が冷たくなる。とにかくフォースはまっすぐそこへ向かうしかなかった。
 フォースは、子供の頃から知っていた、防壁が壊れているところからヴァレスに入った。内側にも外側にも草が茂っていて隠れているためか、ずっとそのままになっている。
 そこをくぐり抜け、外壁に沿って少し行くと、荷台が道を占拠しているのが見えた。
 すぐ側で土を蹴っていた男が、こちらに気付くこともなく、身をひるがえして家の方へと走っていく。身なりは普通だが、腰に差している剣でイージスの仲間だろうと見当が付いた。やはり行き先は神殿ではなかったのだ。
「隊長?!」
 その声に振り向くと、ブラッドが青ざめた顔で座り込んでいる。
「ブラッド?! 大丈夫か? さっきのは」
 フォースが差しだした手に、ブラッドは首を振って見せた。
「足、くじいちゃって。息も上がってるし。早く行ってください、リディアさんが」
「悪い、先に行く」
 フォースはブラッドの怪我に気付かぬまま、家に向かって駆けだした。
 家の外には見張りらしき男が一人、目だけをキョロキョロさせて立っていた。フォースは事も無げにその前を通り過ぎ、塀の低くなっている部分から二、三歩足をかけるだけでサッと乗り越えた。振り返った見張りが慌てて内側へ入ってくる。
 フォースは塀の際に沿って門の方向へ走っていた。入ってきた見張りを塀の陰で見送り、背中から首筋に一撃を食らわす。見張りが伸びるのを見て剣を抜くと、フォースは玄関に駆け寄り、家の中をうかがった。
 すぐにリディアが視界の中に飛び込んできた。ブラッドの所から来た男の服に散っている返り血を見つけ息を飲む。ブラッドは斬られていたことを隠していたのだ。早く手当てしなくてはならない。
 その男と兵士が縄を手に、なんとかリディアを縛ろうと四苦八苦している。シャイア神の力だろう白い火花と共にバチッと音がし、飛び退いた兵士が手にしていた縄が崩れて落ちた。
「もういい!」
 イージスがその兵士を押しのける。
「連れ帰れないのなら、ここで斬るまでだ」
 イージスが剣に手をやったのを見て、フォースは中に飛び込んだ。リディアを斬ろうと向かってくる剣身を、すんでの所で受け止める。
「退け! ライザナルへ戻れ!」
「我々はレイクス様の命令を、?! レイクス様!」
 剣を止めた相手がフォースだと気付き、イージスは慌てて剣を引いた。
「俺はそんな命令は出していない。剣を収めろ!」

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