レイシャルメモリー 2-10


「俺はフォースだ。どこにいようと、誰がなんと呼ぼうと、それは変わらない」
 フォースはそう言うとイージスの口を解放した。イージスは言葉に迷っているのか、何も言えずにいる。フォースはアジルに敬礼を向けた。
「また後で顔を出す。何かあったら知らせて欲しい」
「了解」
 アジルの返礼を見て、フォースはその部屋を出た。当然のようにイージスがついてくる。
「レイクス様」
「その名前を口にするな。それがどういう人間の名前かバレたら、城都への往き来が困難になるだろ」
 フォースの言葉に、イージスは少し間を置いてから、はい、と答えた。
 治療院を出ると、緩やかな風が頬を撫でて通りすぎていく。もうすぐリディアに逢える。そう思うと、家に向かう足が無意識に速くなった。だが、相変わらずイージスが後ろにいる。
「巫女の護衛に戻るおつもりなのですか?」
「仕事じゃなくても、俺がやるのは結局リディアを守ることなんだ」
 フォースの言葉に、イージスが、はぁ、と気の抜けた返事をした。
 フォースは、イージスが拉致目的の隊にいつから就いたか知らないのだが、幽閉を解かれた辺りからイージスに会った記憶がないのは確かだった。
「とにかく、君がマクラーンを離れてから、状況が随分変わっているんだ。二階に残ってしまったっていう兵士を連れて帰ってくれないか?」
「でしたら、納得できる説明をいただけませんか?」
 イージスが問い返した言葉に妙な響きがある。そういえば、ブラッドを治療院に運ぶために残ったのではないとイージスは言っていた。
「ここで何をするつもりだ」
「レイクス様がライザナルにお戻りになるまで、護衛につかせていただきます」
 護衛という響きに、フォースは驚いて足を止めた。その背中にイージスがぶつかってくる。
「申し訳ありませんっ」
 フォースが振り返ると、頭を下げたイージスが目に入った。
「なに言ってる、騎士に護衛は必要ない」
「いえ、陛下のためにもレイクス様を守らせていただきます」
 イージスは真剣な顔でフォースを見つめてくる。
「……、分かった、帰るのを納得できるように状況を説明する。まず、周りに誰もいなくても、その名前で呼ぶのはやめてくれ」
「はい」
 イージスは幾らかの笑みさえ浮かべ、フォースに向かって敬礼する。フォースはため息だけ返し、家に向かって再び歩き出した。

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