レイシャルメモリー 3-02
「も、申し訳ありませんっ」
イージスがフォースと間を取って、勢いよく敬礼した。
「あんたライザナルの嘘つき女!」
マルフィの、イージスを指差しての罵倒に、イージスはもう一度、今度は無言で深々と頭を下げる。
「フォースっ、そんな女殺しておしまいっ」
頬を膨らましていったマルフィに苦笑を向けると、フォースはマルフィを家の方に向けて背中をポンポンと叩く。
「駄目だよ。これ以上事を荒立てたくないんだ」
「もういいだけ荒立ってるよ! あの旦那、私はともかくアリシア一人助けられないなんて!」
マルフィは顔を赤くして怒りながらも玄関へと向かった。
「旦那?」
「ホントに情けないったらないよっ」
フォースの問いが聞こえたのか聞こえなかったのか、何度もフォースを振り返りながらマルフィは玄関まで進んだ。その扉が内側から開けられ、アリシアが顔を出す。
「お母さん、まだそんなこと言って。あ、フォース! しかもさっきの……」
フォースは後ろにいるイージスを無視して、アリシアに問いを向ける。
「マルフィさん、結婚したのか?」
「何言ってんだいっ。あたしゃ、あんな男はやだよ。フォースが結婚してくれるとずっと思ってたのに、アリシアったらあんな男と」
マルフィが怒っているのは変わらないが、フォースの向けた質問のせいか、幾分勢いが無くなった。アリシアは呆れた顔でフォースを見やる。
「結婚したのは私よ私っ。なんで母さんがあの人と結婚するのよ!」
「だからあの人って」
慌てたアリシアを見てフォースは、バックスがアリシアのことを気にかけていたのを思い出した。
「バックスか?!」
目を丸くしたフォースを、マルフィは恨めしそうに見上げると、大きくため息をついて家に入っていく。後を追うように、アリシアが家の中に顔を突っ込んだ。
「リディアちゃんを差し出してしまったら、私たちだけの悲劇では終わらないことくらい分かってるでしょう!」
その言葉を聞いて、いつだったか正義の味方になると言ったバックスの嫁という立場が、アリシアにはピッタリだとフォースは思った。もういい加減にしてよ、などとブツブツ言いながら、アリシアはようやくフォースと向き合う。
「あの人なら、そこの人が二階に忘れていった兵士を連れて行ったわ。……、じゃなくて聞きたいのはリディアちゃんのことか」
「いや、それも必要だよ」
フォースの苦笑に、アリシアは肩をすくめてニヤッと笑う。
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