レイシャルメモリー 3-03


「やぁね。聞いたのはそれじゃないって、顔が言ってるわよ」
「言ってない」
 冷笑したフォースに、アリシアはノドの奥で笑い声をたてた。
「相変わらずね。進歩してないって言うか」
「お互い様だろ」
「あら、私は進歩したわよ」
 アリシアの言葉に、フォースは息で笑う。
「普通自分で言うかよ。そんなことよりリディアは?」
 眉をしかめたフォースに顔を近づけ、アリシアは可笑しそうにフフフと笑った。
「リディアちゃんなら神殿よ。ルーフィス様が連れて行ったわ」
「え? 親父?! ……」
 フォースは思わず聞き返して口をつぐんだ。現在の護衛はルーフィスなのだろうから、当然といえば当然だ。アリシアは満面の笑みを浮かべる。
「サーディ様、スティア様も一緒よ。まぁ、頑張って取り返すのね」
「そうする」
 気の抜けた返事をしながら、フォースはアリシアに手を振り、背を向けた。
 門を出ると、今度は街の中心部、神殿の方へと足を向ける。リディアを取り返さなくてはならないという義務感よりも、ここで逢えなかった寂しさを大きく感じていた。
 フォースは少し足を進めてから、やはりイージスが後ろをついてきていることに気付いた。だが、やり合うのも面倒で振り返ることなく、ただ足を運んでいる。
 後ろにいるイージスやブラッドのこと、そして積み重なった疲労がフォースの気持ちを重くしていた。これまでのことや拉致の動きのことも、すべて説明しなくてはならない。
 神殿の鐘塔部分だけが見えていたが、街の中心の広場に出ると全体が姿を現した。もうすぐリディアに逢えるのだ。少し前に触れた指先の感覚がよみがえってくる。
 フォースはいつも出入りしていた神殿の裏口へと向かった。門のところまでくると、扉の前から珍しい物でも見たように、じっとこちらを見ていた見張りの兵士が、ハッとしたように敬礼を向けてくる。フォースは返礼をして扉まで進んだ。兵士は扉をノックして、中に声をかけている。
 出てきたのはグレイだった。笑顔で扉を大きく開けてくれる。
「お帰り、遅かったね。みんな待って、……、顔色悪いぞ?」
「そうか? もしかして日に当たらない生活をしていたからかな」
「もとは色白だってか?」
 グレイは可笑しそうに笑うと、部屋の方へとフォースの腕を引いた。
「リディアはルーフィス様と部屋にいるよ」
 そう言いながら目に入ったのだろう、グレイは視線をフォースの後ろにいるイージスに向ける。訝しげな顔のグレイに、フォースは苦笑して見せた。
「帰ってもらおうと思ってるんだけど」

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