レイシャルメモリー 3-06


「ホントか!」
 思い切り驚いたサーディと違い、スティアはキョトンとした顔でフォースを見つめてくる。
「……嘘」
「あのなぁ。少しは喜べよ」
 フォースがため息と共に苦笑すると、スティアの目からいきなり涙がこぼれた。
「喜んでるわよっ。突然そんなことを言うからビックリしたじゃない。婚礼って、……、ちょっと貸してよっ」
 スティアはリディアの腕をとって引き寄せると抱きしめた。リディアは柔らかな笑顔でスティアの髪を撫でる。フォースは手持ち無沙汰になった手で、スティアの肩をポンと叩いた。
「舅と姑には苦労させられるかもな」
「レイクス様っ!」
 顔色を変えたイージスに、フォースは眉を寄せて視線を投げた。イージスは自分が口にした名前に気付いたのか、申し訳ありません、と、慌てて頭を下げる。
 フォースがため息をついてそっぽを向くと、イージスは一度上げた頭をもう一度下げたのか、低い場所から声が聞こえてくる。
「リディア様、先ほどは大変失礼をいたしました。スティア様、お話はレクタード様からうかがっておりました。ライザナルの騎士でイージスと申します。以後、お見知り置きを」
「騎士?!」
 スティアが素っ頓狂な声をあげ、自分で口を押さえた。フォースはため息混じりの声を出す。
「さっきリディア拉致の実行責任者って言っただろ」
「だって女性よ? 思いっきり別に考えてたわ。それで護衛するなんて言うのね」
 スティアに、はい、と返事をして、イージスは敬礼した。
「よろしくお願いします」
 不安げに見上げてくるリディアに苦笑を返し、フォースはイージスと向き合った。
「俺はまだ許していない。それに、ここに残ってると、もう一人と一緒に投獄になるかもしれないんだぞ?」
「それでもかまいません。陛下のお気持ちを考えると、このまま残らないわけには」
 イージスはすっかり決意してしまっているのか、手を握りしめている。それに気付いたフォースは、逆に肩の力を抜いた。
「護衛はいらないし、陛下のお気持ちってのも変化してるって言ってるだろ」
「いいえ。来たからにはご一緒させていただきます。幸運なことに、私がライザナルの人間だと知っているのは、数人の方達だけですし、髪も瞳も少し薄いくらいの茶色です、メナウルでも目立ちません」
「そういう問題じゃ……。大体、大人数なほど動くのに制限がかかっちまう」
 フォースは眉を寄せてリディアを見下ろした。リディアも困惑した顔でフォースを見上げてくる。グレイはサーディとスティアをソファーに座らせながら口を開く。

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