レイシャルメモリー 3-07


「もしかしてフォースがライザナルに二度と行かないとでも思ってるんじゃ? 別に見張ってなくても、フォースなら親書の返事を頂戴したら間違いなく届けに行くよ」
「いえ、そういうことではありません。ただ無事にお帰りいただけないと、陛下に申し訳が立ちませんので」
 イージスの言葉に、ふうん、と気の抜けた返事をすると、グレイはサーディの向かい側の椅子に落ち着いた。
「いいんじゃない? いても」
「おい。ただ必要ないだけじゃない、もし素性がバレでもしたら危険なんだぞ?」
 フォースは、グレイを横目で見てフウと肩の落ちる息をつく。その肩に、リディアが指先を乗せた。振り返ると、椅子が置いてある。
「フォースも座って。疲れてる顔してる」
 フォースは素直に礼を言ってその椅子に腰掛けた。リディアはもう一脚をソファーの側まで運ぶ。
「イージスさんも座りませんか?」
「いえ、私はここで」
 少し離れた場所、扉に近い位置で頭を下げたイージスを見てリディアは肩をすくめ、自分もフォースの左斜め後ろに椅子を置いて腰を落ち着けた。
 イージスはフォースよりも頭が高くならないようにするためか、その場にひざまずく。
「私の安全など、考えてくださらなくてかまいません」
 なにを言っても折れるつもりが無いのか、イージスは余裕の笑みを浮かべている。フォースは眉を寄せて、その笑顔を冷ややかに見た。
「じゃあ、言い方を変えよう。俺はリディアと二人でいたいんだ。君は邪魔だ」
「どうぞ、お気になさらず。居ないモノとして空気のように扱っていただいてかまいません」
 予想していた最悪の返事が返ってきて、フォースは頭を抱えた。
「だから、扱うのが面倒なんだって言ってるだろ?」
 イージスはフォースに邪気のない笑顔を向ける。
「それに、私がいることで少しでもニーニア様のご意志が通るのなら、そのためにもお側にいないわけにはいきません」
「あのな。それのどこが、お気になさらず、なんだ? 思いっきり期待してるんだろうが」
 フォースは不機嫌な顔で吐き捨てるように言った。
「ニーニアって?」
 スティアがたずねた聞き慣れない名前にサーディが顔をしかめると、イージスは軽く頭を下げて口を開く。
「ニーニア様はライザナルの皇女、生まれながらにしてレイクス様の婚約者です」
「あぁ、あの八歳の」
 そういってグレイが苦笑した。フォースは憮然とした顔でイージスを睨みつける。
「だから、俺はニーニアとは結婚しないって言ってるだろ」

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