レイシャルメモリー 3-08


 フォースの視線を気にすることなく、イージスはフォースをまっすぐ見返した。
「レイクス様のご意志は承知しておりますが、今大切なのはニーニア様のお気持ちです。ニーニア様のお気持ちがレイクス様にある間は、私はレイクス様のお側にいます。それで少しでもリディア様とのことを控えてくださるのでしたら、我が意を得たり、です」
「は? 冗談じゃない、意地でも控えるかよ」
 フォースはそう言ってしまってからハッとして、片手で両頬を挟むように口を押さえた。サーディはブッと吹き出したあと、そっぽを向いている。リディアは真っ赤にした顔を両手で隠していた。
「変わってねぇ」
 グレイがそうつぶやくと、スティアはうなずきながら呆れ半分の笑みを浮かべる。
「売り言葉に買い言葉、にしてもねぇ」
「まぁ言葉にしようがしまいが、まわりで何を言おうが態度は変わらないだろうけど」
 クックとノドの奥で笑いながら言ったグレイに、サーディが、俺もそう思う、と何度もうなずく。
 フォースがリディアを振り返り、ゴメン、と声をかけると、リディアは頬に手を置いたまま微笑んで、小さく首を横に振った。
「帰ってきたと思ったら、なんて顔をしている」
 階上からの声に、フォースは階段の上を見上げた。ルーフィスがいる。なんのことを言われたのだろうかと、フォースは自分の顔に片手をやった。
「話を聞こう」
「え? あ、はい」
 返事をして立ち上がったとたん、フォースの視界が揺れた。一緒に立ち上がっていたのだろう、リディアが腕を支え、心配げに見上げてくる。
「大丈夫?」
「ああ。長いこと寝ている間も移動しっぱなしだったから、なんかまだ揺れてて。ありがとう、もう平気だよ」
 フォースがリディアに言った言葉に、グレイが顔をしかめた。
「調子が悪そうなのは、それか」
「では、私がお話しします。拉致責任者ですので」
 そう言いながら階段に向かって歩き出したイージスに、フォースは眉を寄せる。
「いいから帰れって」
「聞ける話しは聞く。先にその方の話を聞かせてもらおう。お前は一度休め」
 ルーフィスの言葉に、フォースはこのままルーフィスとイージスが話しをして、護衛まで納得させられてはたまらないと思った。何か言い返さなくてはと思考を巡らせたフォースの腕を、リディアが引く。
「休んで」
「でも、」
「疲れているんだもの、眠らなきゃ駄目よ」
 返す言葉を探せずにリディアを見下ろすと、リディアは穏やかに微笑んで見上げてきた。

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