レイシャルメモリー 3-09


「行きましょう」
 リディアはイージスに先に行くようにと促し、フォースの腕をとったまま、階段を上り始めたイージスの後に続く。
 フォースは階段に足をかけて、身体が思うように動いていないことに初めて気付いた。リディアが無事だったこともあり、気が抜けたのかもしれないと思う。
「おやすみぃ」
「また後でな」
 スティアとサーディから声がかかり、フォースは苦笑して手を振った。
 階段を上りきって二階廊下の方を見ると、元リディアがいた窓のある部屋へと、ルーフィスがイージスを通しているところだった。二人いた兵士に、笑顔と共に敬礼を向けられ、フォースは返礼を返す。部屋へ入りかけたルーフィスが、足を止めてこちらを向いた。
「とりあえずリディアさんの所で休ませてもらえ。部屋がない」
 サーディとスティアも来ているのだ、部屋数は間違いなく足りない。ライザナルへ行く前日の夜は、場所がないせいもあり見張りにまわされたのを思い出す。
 フォースが苦笑を返すと、ルーフィスはうなずいて部屋へ入りドアを閉めた。
 リディアの部屋といっても、それはここを出る前にフォースが使っていた部屋だった。懐かしい気持ちでドアを開けると、自分が置いたままの上位騎士の鎧が目に入ってくる。
 妙に綺麗に見えるその鎧は、側まで行くと埃一つ無いほど綺麗に手入れされているのが分かった。思わずリディアを振り返る。
「あんまりいないと、すり減って無くなっちゃうんだから」
 リディアはフォースが何に驚いているのか分かったのだろう、そう言うと部屋へ入って、クスクス笑いながらドアを閉めた。側にいてくれるんだと思うとホッとする。
 だが、全部を吐ききるほどの息をつくと、脳裏にブラッドの顔が浮かんだ。今どうしているだろうと思うと、いてもたってもいられなくなってくる。
 フォースは着けていた簡易鎧を外し、上位の鎧に手を伸ばした。リディアがその手を取る。
「フォース?」
 リディアは鎧との間に立つと、フォースを見上げてきた。フォースはリディアの手を引いて抱き寄せる。
「寝ていられない。行かなければならないところがあるんだ」
 そう言いながら、自分の気持ちが落ち着いていくのが分かる。リディアはフォースに身体を預けたまま口を開く。
「どこに行くの?」
 その声がひどく不安げに聞こえ、フォースは腕に力を込めた。
「ブラッドが斬られてるんだ」
 リディアは息をのんで身体を硬直させ、フォースを見上げてくる。
「助かるか分からないって言われてる。だから、治療院に様子を見に行かないと」

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