レイシャルメモリー 3-10
「……、後でね」
硬い表情には変わりないが、リディアは幾らかの笑みを浮かべた。
「リディア?」
「一度休んでからよ。ブラッドさんの前で、そんな疲れた顔はできないでしょう? 逆に心配かけてしまうわ」
まっすぐ見つめてくる瞳に、フォースはなにも言い返せなかった。移動が重なった上、丸一日は眠ってもいない。確かに起きているのが辛いのだ、ひどい顔になっているのかもしれないと思う。
「誰かに様子を連絡してもらうようにしておくわ」
「連絡はアジルがしてくれることになってるんだ。でも、」
リディアの指先が、フォースの頬に触れる。
「だったら休んで。どこにいても結局待つしかないんだもの。なにか知らせがきたら、変わりないって知らせでも起こすから。ね?」
それで不安が消えるわけではなかった。だが、波立っていた不安が今は凪いでいる。リディアは顔をほころばすと、ドアの方へと身体を向けた。
「リディア」
フォースはリディアを後ろから抱きしめた。リディアは幾分驚いた様子で、顔だけで振り返る。
「フォース? 知らせのことを見張りの人に」
「もういい。アジルならちゃんと分かってる。連絡なら来る」
フォースはそう言うと、リディアの耳に口を寄せた。サラサラとした髪が頬に心地いい。
「だから、ここにいて」
そう言って返事を聞く前に、顔を上げたリディアの頬に手をやり、唇を引き寄せ口づけた。気持ちも身体もリディアが足りないと、狂ったように騒ぎ立てている。フォースはこちらを向こうと身体をひねったリディアの肩をつかんで向き合い、力を込めてもう一度抱きしめた。
「もう、二度と離したくない」
腕の中で、リディアはゆっくりとうなずく。
「離さないで。側にいさせて」
きつく抱きしめているからだろう、苦しげで、でも穏やかな声が心を撫でていく。胸にあったリディアの手が背中に回った。
大きな安心感や暖かさが身体を包んでいる。だがそれとは裏腹に、胸の鼓動は痛いほど深く刻まれていた。鎧を隔てていない柔らかな身体の感触や、記憶と変わらない懐かしい匂いのせいで、リディアのすべてを抱きしめて、その手で探ってみたくなる。
「頭が冴えてきそうだ」
「どうして?」
身体を任せたまま見上げてくるリディアに、まさか正直に抱きたいとは言えない。
「どうしてって……」
フォースが口ごもると、リディアは頬を緩ませた。
「私は気持ちがよくて眠たくなってきちゃった」
「は? ちょ、ちょっと待……」
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