レイシャルメモリー 3-11
フォースの驚きようにリディアはキョトンとした瞳を向けてくる。フォースは自分の慌てようを嘲笑し、抱きたい気持ちを押さえつけようと、目を閉じてできる限りゆっくり大きく息をついた。目を開けるとリディアは首をひねりながらも、また微笑みを向けてくる。
「俺のやってることって、まだまだ不毛なんだよな」
そうつぶやいたフォースに、今度はリディアが目を丸くした。
「ええ? そんなことないわ。帰ってこられるだけ本当のお父様と理解し合えたんでしょう? それだけでも、」
「無駄。無意味。役立ってない。全然まだまだ」
フォースはそう言うと、まだ当惑に目を見開いているリディアの足を右腕ですくって抱き上げた。リディアは息をのんでフォースの首にしがみつく。
「な、なに?」
「まだシャイア神からリディアを取り返せない」
そう答えながらリディアをベッドに横たえると、フォースはリディアの身体に覆い被さった。左で片肘をつき、右手はリディアの指と絡ませて、その手をベッドに押しつける。
フォースはそっと身体を預けながら長いキスで唇をふさいだ。息ができないからか、リディアのノドの奥で苦しげな声が漏れる。唇を解放して見つめると、リディアは恥ずかしそうに微笑んでから視線を合わせてきた。
「フォース? 眠らなくちゃ」
拒否されたような気まずさに顔をしかめると、リディアは突然空いていた右手でフォースの首に抱きついた。驚く間もなく引き寄せられるまま身体を合わせ、側の枕に顔を突っ込む。もろに体重がかかっただろうと、フォースは慌てて身体をベッドの奥へと移した。
「大丈夫か?」
フォースの心配げな顔を見て、リディアは含み笑いをしながら、フォースに身体を向ける。
「そんなに簡単には潰れないわ」
リディアはそう言うと、フォースの髪に手を伸ばしてきた。一度だけ指先で撫でると、自分のしたことに驚いたのか、慌てて手を胸に抱くように引っ込める。
その仕草になごんで大きく息をつくと、身体がベッドに沈んだ気がした。しばらく遠ざかっていた眠るための場所が、ひどく心地いい。
「俺、滅茶苦茶疲れてて、よかったのかもしれない」
「どうして?」
何度聞かれても、やはり正直には言えない。フォースは笑みだけ返して目を閉じた。手探りでリディアの手を捕まえる。
一眠りして身体も気持ちも復活したら、自分を抑える気持ちも元に戻っているんだろうと思う。
「フォース? もう眠ったの?」
リディアの声が子守歌のように聞こえ、自分が一番帰ってきたかった場所にいることを実感できる。
「フォース、……、大好き」
眠りに落ちる直前に聞いたかすかな声で、嬉しそうな顔をしたかもしれないとフォースは思った。
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