レイシャルメモリー 4-07


「アルトスって人。フォースのこと、ちゃんと考えてくれていたわ」
 リディアの言葉が意外だったのか、フォースは呆気にとられたようにリディアを見つめている。
「そういえば、リディアは会ったことがあるんだっけ」
 グレイが口をはさむと、リディアはコクンとうなずいた。
「どうでもいい存在だと思っていたら、反目の岩での時、助けてはくれなかったと思うの。必死だったし」
「俺が死んだらアルトスも、いや……」
 生きていたとしても処分は充分にありえると分かっているのだろう、フォースはなにやら考え込んでから口を開く。
「でも疲れるとか身体を壊すなんてことよりも、リディアの無事の方がずっと大事なんだけど」
「フォース……」
 心配げに頬を膨らませて見せたリディアに、フォースは困惑したように顔を歪めた。
「え? あ、そうじゃなくて……」
 まずは自分を大事にして欲しいというリディアの気持ちも分かるが、シェイド神の運命が左右されるだけの大事なのだ、この際リディアの気持ちなどと言っていられないだろうとグレイは思う。
「リディア、フォースは本気で健康を損ねようだなんて思ってないだろ?」
 そう言ったグレイに小さくうなずくと、リディアは苦笑を浮かべたフォースと視線を合わせた。それを見て笑みを浮かべながら、グレイは言葉をつなぐ。
「それに、フォースはそんなことよりアルトスに対する嫉妬の方が大きいだろうし」
「は? バカ言え、アルトスに嫉妬なんて、……」
 フォースは思いも寄らなかったのか、そう言いながらグレイを見たが、最後まで言い切る前に口を閉ざす。
「嫉妬なんて?」
 グレイが聞き返すと、フォースは眉を寄せたまま視線を逸らした。
「……、してるかもしれない」
 その返事に、グレイは思わず吹き出しそうになる。リディアが驚いて目を丸くしているのを見ながら、グレイは笑いをこらえていた。
 グレイに対すると、フォースは変に正直なところがある。それは笑みを浮かべた表情とは裏腹に、グレイにとってはひどく気がかりだった。
 神官である自分に嘘がつけないのは、ただバカ正直だからではなく、罪の意識がいつも胸に残っているからなのだと思う。そしてこの呪縛から逃れるためにも、フォースはやはりライザナルに行くことになるのだろう。
 救いたい人を救えないのは、グレイにとっては重たい事実だった。だがフォースにはリディアがいる。神殿に救えなくても別の方法ならあるのだ。

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