レイシャルメモリー 4-08
フォースと離れ、それでも想いだけは一緒にいることができたのだろう、リディアは成長したし強くなったと思う。小さな時から見ていて妹のようなリディアが今、グレイには女神そのものに見えた。
ドアの側にいたバックスが、壁をノックして音を立てる。
「フォース、ルーフィス様だ」
その名前でフォースの表情が引き締まる。バックスとアリシアの間から、来い、とルーフィスが手招きをしたのを見て、フォースが立ち上がる。
「行ってくる」
フォースはリディアに笑みを残し、部屋を出て行った。
***
「無視できるのは、今回だけだ」
机をはさんで向かい側のルーフィスは、なにか書き込んでいた書類から顔を上げて言った。フォースは、机の側に運んだ椅子に腰掛けたまま、分かっています、とうなずいて見せる。
「手筈を整えてきました。もう二度と起きないはずです」
フォースが向けた視線の先で、ルーフィスは大きくため息をついた。信じてもらえているだろうかと不安になる。
「なんにしても、お前が無事でよかった」
リディアではなく俺のことか、と突っ込みたくなる気持ちを抑えて、フォースは頭を下げた。
「ご心配をおかけしました」
「また行くのだろう。リディアさんはどうするつもりだ?」
フォースはその言葉に、連れて行きますと即答したかった。だが、リディアとはまだその話しを少しもしていない。
「彼女が行ってくれるなら、一緒に行きたいと思っています」
「まぁ、そうできれば一番なんだろうがな」
当然反対されるだろうと思っていたフォースは、思わず訝しげな目でルーフィスを見た。ルーフィスはまっすぐ見返してくる。
「まだ聞いていなかったか。シャイア神の特性として、巫女と、その視界範囲内にいる戦士は、他の神から存在を隠して行動できるんだそうだ」
「悟られずに動けるってことですか!」
フォースが驚きに目を見開くと、ルーフィスはフォースにうなずいてみせた。
「そういうことだ。ちょうどいい。城都へ行くなら、シェダ様にリディアさんを連れて行くことの了解を取ってこい」
「え、……」
シェダの名を聞いて、フォースはギクッとした。言われて初めて、許しを得なくてはならないのがシェダだと思い当たったのだ。
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