レイシャルメモリー 4-09


「なんだ、不満か? 神官長に黙って、巫女を国外に連れ出すわけにはいかないだろう。それとも駆け落ちでもするつもりだったのか?」
「は? い、いえ。ただ、なにを言われるだろうと思ったら不安で」
 顔をしかめたフォースに、ルーフィスは苦笑した。
「一緒にライザナルへ行くなど、結婚を申し込むのと変わらないだろうからな。確かに想像がつかん」
 なにか助言してくれるのかと思ったらコレだ。フォースは脱力してため息をついた。
「エレンは親のことすら話さなかったのだから、私に想像しろと言っても無理な話だ」
 そう言うと、ルーフィスはノドの奥で笑い声をたてる。フォースの脳裏に、ふと母のいた部屋でクロフォードに言われた言葉がよぎった。
「母の墓は、マクラーン城の神殿地下に移設されたようです」
「ようです? 見ていないのか」
 見たいという気持ちは確かにあった。だが、墓を暴かれた衝撃も、悔しさもある。しかも、墓に行くためにはシェイド神の神殿を通らねばならない。それを押して行ったとしても、気持ちを逆撫でされるだけだろう。
 だが、それよりもルーフィスの気持ちが問題だと思う。遠く離れてしまい、寂しくはないだろうか。辛くはないだろうか。
 口をつぐんだフォースに、ルーフィスは苦笑を向けてきた。
「問題は墓の場所じゃない。私はいつでもお前にエレンを感じている。お前はそれを大事にすればいい」
 その言葉に安心して、フォースはしっかりとうなずいた。
 神の守護者としての血。フォースはそれを間違いなく引き継いでいる。そして、昔はこの血のせいで、色々とひどい目に遭っていたと思いこんでいた。
 だが今は、この血にとばっちりを受けているとは思わない。この血があるからこそ、リディアを取り返す努力もできる。必要なのだ。相殺しても恩恵の方が多くさえ感じる。
 そしてそれをルーフィスも感じてくれているなら、自分はなおさらマクヴァルの思想に負けるわけにはいかないのだとフォースは思う。
「明日にでも、城都に向けて発とうと思います」
 ルーフィスは、分かった、と大きくうなずく。
「気をつけて行ってこい」
 フォースは立ち上がり、ルーフィスに敬礼を向けた。

   ***

 先を行くアリシアが、ドアをノックした。そのすぐ後ろにはリディアが手を胸の前に合わせ、不安そうに立っている。
 ドアを開けたアリシアが様子をうかがうように顔を突っ込むと、アリシアさん、と弱々しいが名前を呼ぶブラッドの声が聞こえた。

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