レイシャルメモリー 4-10


「起きてた? お客さんよ。少しでも眠って欲しいから、あまり長い時間は駄目だけど」
「……、リディアさん?」
 自分の名前が先に出てきたことに驚いたのか、リディアがキョトンとした目で振り返った。フォースは黙ったまま微笑みを返す。
「そう、リディアちゃんよ」
 アリシアの笑いを含んだ声が、ドアの隙間から漏れてくる。フォースがドアを指差すと、リディアはうなずいてそのドアを押し開いた。フォースが目に入ったのか、うつぶせに寝かされ、首だけでこちらを向いたブラッドの目が丸くなる。
「隊長? す、すみません」
 いきなり謝られ、フォースは呆気にとられた。
「すみません、って。なんで?」
「え? あ、いえ、あの」
 ブラッドは言いずらそうに口ごもると、覚悟を決めたように息をつく。
「隊長がいない間、ずっとリディアさんの笑顔がよりどころだったなんて……」
 その言葉で、リディアは驚いた目をブラッドに向けた。ブラッドは照れ笑いを浮かべる。
「知ったらやっぱり怒りますよね」
 それを聞いて、アリシアが何度もうなずいた。
「そうね。嫉妬深いものね、フォース」
「どうしてだよ、怒らないよ。俺だってよりどころだったのは変わらないし、そりゃ側にいられたのは羨ましいと思うけど」
 幾分むきになったフォースに背を向け、アリシアが可笑しそうに笑い出す。
「嫉妬と怒りは、別物ってわけね」
「てめっ、……」
 文句を言おうとしたが言葉が出ず、フォースは口をつぐんだ。その左腕にリディアが腕をからめ、穏やかな笑顔で見上げてくる。
「妬いてくれるの、嬉しい」
 背伸びをして耳元でささやかれた言葉に、フォースはくすぐったい思いで頬を緩めた。アリシアはブラッドに肩をすくめて見せる。
「でも、本当にリディアちゃんが無事でよかったわよね」
 そう言うと、アリシアはフォースに背を向け小声でつぶやくように言葉を継ぐ。
「フォースがグレたら大変だもの」
 ブラッドは息でフッと笑うと、背中の傷に響かないよう、まばたきをしながらそっとうなずく。
「斬られてから見た隊長が幻覚だったら、どうしようかと思いましたよ」
 ブラッドはホッと息をついて微笑んだ。逆にフォースは表情を硬くする。
「俺、ブラッドが怪我してることに気付けなくて……」
「冗談じゃないです。こっちは必死で無事なフリをしてたのに、簡単に見破られてたまりますか」

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