レイシャルメモリー 1-04


「誰だ、それ」
「クエイド」
 フォースが挙げた名前に、バックスとグレイは顔を見合わせた。予想通り、二人が口をつぐんでしまったことに、フォースは眉を寄せる。
「言っておくけど私怨じゃないからな。向こうで色々出てきたんだ。ドナの犯人が息子だったり、ゼインが孫だったり」
 その言葉にさらに言葉を失ったのか、バックスとグレイはただ驚いた顔をフォースに向けた。
「とにかく母や俺のこともあって、自分の立場を守るために戦を続けていなくてはならなかったらしいんだ。俺がライザナルに行って無事に帰ってきたのを知っていたら、まず間違いなく仕掛けてくるだろうな」
「襲われるってことか」
 バックスはそうつぶやくと顔をしかめ、すぐに口を開く。
「充分に有り得るじゃないか。ついていく目的がハッキリしたってもんだ」
「そう、だから護衛を頼んだんだ。バレてはいないと思うけど内部のことだからな。新婚さんに頼んじゃって悪いけど」
 フォースが笑みを向けると、バックスは、かまわねぇよ、と冷笑を返してきた。
「巫女の護衛だ、二隊付いていても多いってことはないさ。向こうの数が少なければ、襲う機会を与えずに済むかもしれないしな」
「城都に着いたらクエイドに会う。帰りはそんな心配がいらないようにするよ」
 いくらか緊張した顔で言ったフォースに、バックスはうなずいた。
「まぁでも、どっちかって言ったら、嫁さんがマルフィさんと険悪だったりする方が心配なくらいだ」
 確かに、マルフィの怒りは尋常ではなかった。フォースは、イージスがいたからだろうと思っていたが、そうでもないらしい。目が合うと、バックスは苦笑を向けてくる。
「俺のせいで責められてちゃ、可哀想だからな」
 その言葉に、フォースは思わず笑みを漏らした。バックスは照れくさそうに頭を掻く。
「いや、マルフィさんも俺を責めてくれりゃあいいんだが、親子だけに、そうはならないらしくて」
 グレイは、そういうものか、とつぶやくと、フォースに視線を向けた。
「大変だろうね、リディア。シェダ様を相手にしなきゃならないなんて」
「うわ、シェダ様」
 バックスが目を丸くする。フォースは口を開きかけたが何も言えなかった。今回の城都行きで、ライザナルに連れて行かせて欲しいとシェダに頼まなければならない。本当に仲たがいさせてしまったとしたら。
「既成事実が作れない状態だからな」
 グレイがしれっと言った言葉に、フォースはブッと吹き出して背中を向ける。
「そ、そんなことしたら、なおさら大変だろうがっ」
 いくら顔が見えないと言っても動揺しているのはすっかりバレているのだろう、グレイはノドの奥で笑い声を立てている。

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