レイシャルメモリー 1-05


 それにしても。シェダにライザナルへの同行を許してもらえなければ、辛いのはリディアだ。リディアを守ろうにも、自分がその親子関係にどうやって関わればいいのか想像がつかない。
「大丈夫だよ」
 グレイが声をかけてくる。
「リディアはシェダ様と、ずっと付き合ってきてるんだから」
 グレイの言葉に、だからこそ心配なんだと思いながら、フォースはため息をついた。
「ついて行きたかったわ」
 廊下の奥から聞こえたスティアの声が、少しずつ近づいてくる。
「今回の話しって私のこともあるのに、別に発てって。分かるんだけど」
 その言葉で、今回の城都行きの話しだと、フォースはすぐに理解した。
「私も、父にライザナルに行ってくるって伝えておきたいの」
「それだけ?」
「他にあるの?」
 それもルーフィスが言っていたので、容易に想像がつく。スティアは、シェダに結婚の承諾をもらえと言いたいのだろう。
「そうか、そうよね。それってリディアの用事と違うわ」
「え? なんのこと?」
 リディアが気付かないのは、ライザナルへ行くことに少なからず緊張感や恐怖感を持っているからだと思う。
 クスクスと笑いながらスティアが廊下から出てきた。その後ろから、スティアがなにを言っているかを悩んでいるのか、難しい顔をしたリディアが姿を表す。
 フォースと目が合うと、スティアは笑みを浮かべて側まで来る。フォースは喋るなという意味で、人差し指を口に当てて苦笑を返した。
「あれ、分かってる? 珍しい」
 小さくつぶやくと、スティアはサッサと扉に向かって歩いていく。ひとこと余計だと思いながら、フォースはスティアを目で追った。リディアはスティアを見送るためか、扉までついていき、また何か話し込んでいる。
 リディアと一緒にライザナルへ行くことをシェダに許されるなら、それで話しはすむ。だがシェダにとってリディアは一人娘だ。いくら巫女だからシャイア神のいいつけを聞かなければならないといっても、気持ちが収まらないところがあるだろう。当然、自分の存在も大きく関わってくる。
 もしも同行を許してもらえなかったなら。どうにかして自分を標的にしてもらえばいい。それには、結婚を申し込んでしまうのが一番だ。
 許されない上に結婚を申し込んでも、まず間違いなく断られる。そうすることで、上手くすれば自分が盾になれるかもしれない。
 もしリディアがシェダとケンカをしてしまったとしても、あとは自分がしっかりと、リディアが安心して帰ってこられる場所でいればいいのだ。
「フォース?」
 スティアを見送り、すぐ側まで来て見上げてくるリディアに、フォースは椅子を引いて座るように促した。

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