レイシャルメモリー 1-08


 そう言いながらも、リディアは笑顔を少しも曇らせずにいる。ユリアは眉を寄せてため息をついた。
「あなたはそうやって何でも受け入れてしまうから……」
「イージスさんのことも婚約者がいることも、ただの事実だわ。私にはフォースがどう思っているかの方が重要なの」
 リディアの微笑みを見つめていたユリアが、視線を逸らして足を踏み出し、廊下に向かう。
「きっといつか辛くなるわ。たくさん積み重なって、どうしようもなくなって」
「俺が一つずつ取り除く。必ず守る」
 フォースの言葉に足を止め、ユリアは一つ息をついた。
「できるのなら、サッサとやんなさいよ」
 ユリアがフッとかすかな笑い声をたてて廊下へ入っていくのをフォースは唖然として見送った。ユリアの姿が見えなくなると、笑いをこらえている風のグレイに向き直る。
「あれはなんなんだ? わけが分からない」
「まぁ、北と南ってくらい方向が変わってるからな。わずらわしいか?」
 グレイの質問に、リディアが不安そうな顔をする。
「いや。今の方が断然いい」
 フォースがそう答えると、リディアは穏やかに微笑んだ。
 今の方が断然いいのはリディアもだとフォースは思う。自分がライザナルに行っている間に、ずいぶん強くなった。
 襲撃された時、イージスの前に立ったリディアは、まるで女神が表面に出てきていた時のように毅然たる態度だった。
 自分の調子が悪いのをきちんと見ていて支えてくれたし、ブラッドが斬られたことを伝えた時も動揺を抑え、無理をしようとした自分を止め、連絡を取るように動いてくれようとした。
 今もそうだ。ユリアを納得させようと、しっかりと自分の意見を笑顔で口にした。
 前のリディアなら、怖がったりオロオロしてしまい、フォースが気付いてたずねない限り、何も言えなかっただろうと思う。
 今は、庇護しているというより、肩を並べている、支えてくれているという実感がある。リディアを想う気持ちにも、余裕が持てている気がする。
「ホント、初心者向けだよな」
 グレイがため息をつくように言葉を吐き出した。フォースは初心者という響きに眉を寄せる。
「なんの話しだ」
 フォースと目が合うと、グレイはフォースを指差した。
「初心者って言ったら決まってるだろ。フォース、まだユリアに惚れられてるんだな、と思って」
「は? どこをどう解釈したらそうなるんだ? 間違いなく嫌われているだろうが」
 フォースの疑問に、グレイは肩をすくめる。
「まっすぐなモノがまっすぐにしか見えないフォースに理解は無理」
 グレイの言葉に、フォースはますます顔をしかめた。グレイは、苦笑を浮かべながら口を開く。

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