レイシャルメモリー 〜蒼き血の伝承〜
第3部2章 拘泥の相関
2. 虹色の光 01


「おい、危ないぞ」
「平気ー」
 ティオはフォースの声にそう返事をして、馬車の窓から屋根の上へと上がっていった。慣れてしまったのだろう、リディアはただ苦笑しただけだ。バックスが騎乗したまま窓の側に寄ってきて口を開く。
「やっと二人きりになれたね」
「バカ」
 フォースは呆れて、そうつぶやいた。
 一つの空間に二人になったのは、確かに久しぶりだ。移動と宿との繰り返しで、いつでも周りには兵士がたくさんいた。一緒に馬車に乗るのも初めてだ。
 だが、馬車の窓は開いたままだし、騎乗した兵士の目線と窓の高さがあまり変わりないので、中はまる見えだ。これを二人きりとは言わないだろうとフォースは思う。
 そのフォースの腕を、隣に座っているリディアが引いた。
「ホントに二人になれるのを待っていたの。シャイア様のことを話すと、ティオが怖がっちゃうから」
「シャイア神の? なに?」
 フォースがリディアに向き直り、顔をのぞき込むと、リディアはフォースの耳に口を寄せてくる。
「反目の岩のところで、フォースが落としていった短剣があるでしょう?」
「え? あれってあそこで」
 目を見開くと、リディアはフォースに小さくうなずいた。
「ずっと持っていたんだけど、それが光るの。シャイアさまの光」
「シャイア神の? 短剣が?」
 フォースが顔をしかめると、リディアは困ったように視線を落とす。
「ええ。フォースが帰ってきた時、すぐに返そうとも思ったんだけど。渡さないでいたらシャイア神が何か言ってくれるかと思って」
「それで? なにか分かった?」
 フォースの問いに、リディアは眉を寄せて首を振る。
「グレイさんが本でも調べてくれているのだけれど、まだ何も」
「今も持ってる?」
 その声にリディアはうなずくと、巫女の服のスカート部分に手をかけた。何をするのかと見ていると、リディアは頬を上気させて控え目な笑みを浮かべる。
「向こう向いてて」
「あ、了解」
 その言葉にスカートの中にあるのだと気付き、フォースは慌ててリディアに背を向けた。窓の外のバックスと目が合う。
「ちょ、ちょっと待って。見えてる」
 フォースは、左右についている日除けのためのカーテンを急いで閉めた。
「おい、何やってるんだ」
 外からバックスが声をかけてくる。
「大事な話があるんだ。ちょっと待ってて」
「フォース、こっち向いて、」
 リディアの声にフォースが振り返ったとたん、馬車の中に光が充満した。

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