レイシャルメモリー 2-02


「なっ?! 大丈夫か?! 見えな……」
 フォースは、思わずリディアを抱き寄せるように腕を回す。そこにリディアがいることに安心し、光が収まった時に周りが見えるように、きつく目を閉じた。腕の中から笑みを含んだ声が聞こえる。
「平気よ、あ、収まってきたわ」
「フォースっ? ヤバいことしてんじゃないだろうなっ?!」
 外からバックスの声が響く。フォースは片手で顔を覆った。
「見張ってる方向が違うだろうが」
 リディアはそのつぶやきにクスクス笑うと、フォースの腕を引っ張った。フォースがゆっくり目を開けると、まだまぶしいほどの短剣の光が目に差し込んでくる。
「ずいぶん強烈な光だな」
「シャイア様は何も言ってくださらないけど、これに意味がないとは思えないの」
 その言葉にうなずくと、フォースは何か手がかりはないかと詩を思い浮かべた。
 火に地の報謝落つ。風に地の命届かず。地の青き剣水に落つ。水に火の粉飛び、火に風の影落つ。風の意志、剣形成し、青き光放たん。その意志を以て、風の影裂かん。
 剣という言葉は出てくるが、剣の形を成すというなら、元は剣ではないということだ。他にも暗示するような言葉は見あたらない。
 リディアが小さくため息をつく。
「最初、これが女神の意志を持った剣で、これを使って斬れっていうことかと思ったの。でも、肝心の光が青くないのよね」
「そうだな。それが女神の意志だってのなら楽でいいんだけど」
「おーい、フォースー?」
 内緒で話しかける時のようなバックスの押さえた声が聞こえてきた。フォースは顔をしかめると、その声を背にするように座り直す。
「この剣で、光っている時に斬れってことかな」
「ありそう」
 そう同調すると、リディアは短剣を差し出してきた。フォースが受け取りリディアの手を離れたとたん、光が急激に収まっていく。
「あれ」
「消えちゃったわね」
 眉を寄せたリディアと、思わず顔を見合わせる。
「これじゃ、光っている間にって言われても無理だな」
 リディアは口を押さえて視線を泳がせると、もう一度フォースを見つめてきた。
「まさか私に……」
「斬れって? 冗談……」
 言葉を失って顔を見合わせていると、突然ゴンゴンと馬車の車体を叩く音がした。
「リディアちゃーん? フォース、生きてるかー?」
 これでは、いくらなんでも外がうるさすぎる。話しに集中できず、フォースは勢いよくカーテンを開けた。
「ええい、やかましいっ!」
 窓の側にバックスと、少し離れたところからアジルとイージスが、心配げな顔でのぞき込んでいる。

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